想い秘かに

クリスマス編後篇

 そしてやってきたクリスマスイブ。
 その日の夜、木の葉孤児院は大賑わいだった。
「わ〜っ凄いー! 今年はサンタさんだけでなく、トナカイさんも居る〜!!」
 子供達はきゃっきゃと騒ぎ、サンタの格好をしたイルカと、その隣に居るトナカイを囲んだ。
 サンタ姿のイルカは、そりゃあもうべらぼうに可愛かった。初めて見た時、 カカシは鼻血を出すことを忘れなかった。
「メリークリスマス! いい子にしてたかな?」
 イルカがそう言うと、子供達は元気良く「はーい!」と答えた。
「それじゃあ、クリスマスプレゼントだよ」
 イルカは大きな白い袋の中から、小さな包み紙を取り出して、次々に子供達に渡していった。 子供達は大喜びで、順番にそれを受け取った。
 トナカイは――トナカイに変化したカカシは――そんな場景を目の当たりにし、感動していた。
(イルカ先生は、やっぱりいい人だ。俺の目に狂いは無かった。やっぱり大好きだ!)
 プレゼントの中身は、タイヤキであった。包み紙を開けた子供達は、喜んでそれを食べた。 イルカ曰く、あまりいい物をあげるより、こんな風な物の方がいいそうだ。そうかもしれないな、 と喜ぶ子供達の顔を見て思った。…最初はケチってるだけじゃ…と思ったのは秘密だ。
 何よりこのタイヤキは、イルカの手作りだった。ちょっぴり羨ましいカカシだった。
「トナカイさんー!」
 ぼんやりとイルカに見入っていたカカシは、大きな声と共に身体にドシンと衝撃が走って驚いた。女の子が、 トナカイに変化した自分に抱きついてきたのだった。
「わーいおっきいー! 私、トナカイって初めて見たー!」
 タイヤキを食べ終わった子供達は、わいわいとカカシトナカイを取り囲んだ。嫌な予感に緊張を 走らせていたカカシは、子供達の好奇の目にそれが確信に変わるのが見えた。
 子供の手が伸び、自分の角を触った。背中に重み。誰かが乗ったのだろう。まだイルカ先生も 乗せてないのに、俺に乗っていいのはイルカ先生だけだとカカシは振り向こうとして、 しかし角を持つ手が増えて出来なかった。重い。痛い。
これはたまらんと助け舟を求めてイルカを見れば、イルカはにこにこ笑って見ているだけだった。 助けて、と目で訴えたら、イルカはカカシに気付いたように言った。
「おーい、動物を触った後は、ちゃんと手を洗うんだぞー!」
 カカシはついにべしゃんと崩れた。



■  ■  ■  ■



「あ〜っ疲れた!」
「……はぁ…」
 真夜中にあたる時間、カカシとイルカはやっと孤児院を後にし、帰り道を歩いていた。
 イルカはサンタルックのまま。カカシはセーターにジーパン、ブルゾンを羽織り顔は晒していた。
 ボロボロになったカカシは、帰り道、もしかしてイルカに惚れたのは間違いだったかも… なんて鬱が入っていた。
 そんなカカシに構わず、イルカは上機嫌だった。シャンペンで酔っているのも手伝って いるようだった。足取りがふわふわしている。あんな子供騙しの飲み物で酔えるのは凄いと思った。
「でも、子供達が喜んでくれて嬉しかったです。カカシ先生のお陰です! トナカイ、思った 以上に受けましたね! 俺も、子供の頃トナカイに憧れてたんですよ。昔は鼻を赤く塗りたかった んですけど、今は青く塗りたいです」
 色の話しは、青? とちょっと分からなかったが、イルカの子供時代の話が聞けて気分が 昂揚した。悔しい、やっぱり好きなのだ。
「…そういえば、イルカ先生は…失礼かもしれませんが、あの孤児院に?」
「え? 俺ですか? いいえー、俺は自分の家に居ました。孤児院に行くかと誘われて、 俺も一人だし行きたかったんですけど、両親が残してくれたのは家だけでしたから…。 何か、守りたくなったっていうか…って、その家ももう無くなって今はボロアパート暮らし なんですけどね」
 初めて聴く話だった。驚きと共に、喜びも存在した。イルカの過去に触れることが出来た。 もっと詳しく聴きたかったが、あまりこんな帰り道で突っ込んで聴くのも気が引けた。
 会話が途切れたまま暫く歩いていると、あ、そうだ、とイルカは声を上げた。そしてごそごそと サンタ服のポケットを探った。何かと思って見ていると、 イルカは「はいっ」と言って、それをカカシの目の前に差し出した。
「カカシ先生の分のタイヤキです。お腹空いたでしょう? 今日は本当にお疲れ様でした!  ありがとうございました!」
「え…俺にも…?」
 まじまじと、手に取ったタイヤキを見た。思えばイルカから何かプレゼントされたのは、 これが初めてだった。
「ええ。カカシ先生のは、中身はチョコです。チョコ大好きって言ってましたよね?」
「……――」
 あのバレンタインチョコ欲しさの嘘を、覚えていてくれたのか。
 イルカはもう一つ取り出し、これは自分の分ですと言って笑った。
「…カカシ先生? 食べないんですか? もしかして、タイヤキは嫌いでした?」
「…あ…、いや…」
 カカシはタイヤキをじいっと見つめた。そしてイルカを再び見る。イルカはタイヤキ を口に含み「流石に冷めたらおいしくないですね、すみません」と詫びた。それからまた、 ふわふわと歩き、にっこりと笑う。
 胸がきゅーっとしてきて、カカシは頭を振るった。
 そして、印を切り、再びトナカイに変化した。
「あれ、カカシ先生? どーしたんですか?」
「イルカ先生、俺の背中に乗って下さい」
 イルカはいきなりの展開に目を丸くさせ、首を傾げながらも言われた通りにカカシの背に 跨った。イルカが乗ると、カカシは駆け出し、近くの電柱を駆け上った。
「わぁ…っ」
 電柱から屋根と転々と移動し、カカシは小さな山へ向った。山にある木々を渡り走り、 そこから見える景色にイルカは感嘆の声を上げた。
「凄い…っ、綺麗です!」
 街の灯りが夜の闇に浮かび、綺麗な夜景となっていた。ホテルでディナーを食べながら 夜景、といかなかったが、タイヤキ食べながら夜景もいいかもと思ったのだった。
「嬉しいです、ありがとうトナカイさん」
 イルカはぎゅっとトナカイに抱きついた。カカシは背中から伝わるイルカの体温、そして 腕の温もりやイルカの肌の感触に、とてつもない幸福を味わった。
 ああ、泣けてくるぐらい大好きだ。
「お礼に、チュー」
 イルカはトナカイの頭にキスをした。カカシはあまりの驚きに、変化が解けてしまった。
「えっ…? わわっ」
 その為バランスを崩して、二人は木の上から落ちてしまった。しかし流石は上忍、咄嗟に 枝を持ち、速度を緩めてイルカを抱き締め自分を下敷きにして地に落ちた。イルカの重みで 痛く苦しかったが、何とかイルカは無事なようだった。
 イルカは上体だけ起こし、自分の下敷きになっているカカシを覗き込んだ。
「もーっどうしたんですか急に」
「す、すみません…。だって、イルカ先生が…」
 カカシは小さくなって言った。
「ふふー、悪い子、です」
 イルカはカカシの頬を指で摘んで引っ張った。イルカの顔がさっきよりずっと赤い。動きまわったせいか、 さっきより酔いが回っているようだった。
「いひゃいれすいりゅかしぇんしぇ」
「おーしーおきー」
 イルカは変わらず上機嫌だった。まったく、こっちはこんなことにもずっと心臓を痛い位 ドキドキさせているというのに。何だかやるせない気持ちになってくる。
「…チュー…、今の俺にして下さい」
 思わず、ぽろりとそんなことを口走ってしまった。言った自分で驚き、どうしようと思い ながらイルカをそおっと見上げて窺うと、イルカはきょとんとした顔をして、次いで笑った。
「いいですよー、クリスマスプレゼント」
「…え…」
 まさか、と驚いているカカシの額に、伸び上がったイルカがチュッと小さく音を立てた。
「……――」
「はい、プレゼント〜。カカシ先生も、何か、下さいー」
 にっこりと笑うイルカ。
 カカシは思い切り強く抱き締めた。
「んっ、ロープロープ!」
 苦しいのか、イルカはばんばんと地面を叩く。が、カカシは力を緩めなかった。
 苦しいのはこっちの方だ。

 暫くそうしている内、カカシの腕の力は抜け、優しく包むようなものに変わった。心音も 落ち着きを取り戻した。しかしイルカを離せずに居ると、やがて空から白いものが舞い降りてきた。 雪だ。
「イルカ先生、雪です雪…」
 きっとイルカは喜ぶと、思わず咳き込むように言ったけれども、胸元のイルカを見ると、 すやすやと眠りに入っていたのだった。
「……」
 イルカの寝顔に見入っていたカカシは、ゆっくりと顔を近づけ、だが寸での所で止めた。
「…はぁ〜」
 盛大に息を吐いたカカシは、再び空を見上げた。小さな雪が近づくにつれ大きくなっていく。 寒いけれども、カカシはイルカを腕に閉じ込めたまま、暫くの間そうしていた。





(03.12.25up)