バレンタインデー編
「ああ、カカシ先生こんばんは!」
「こんばんは、イルカ先生」
どうぞ、と言ってイルカは、自宅を訪ねてきたカカシを迎え入れた。もうカカシがイルカのアパートに来るのは
当たり前になってきて、カカシがその度何か手土産を持って来るのもいつものこととなっていた。そうして二人で
晩御飯を食べるのが常だった。
「あ、こ、これどうぞ」
「いつもありがとうございます。…あれ、チョコですか」
珍しいなぁ、とイルカは独り言のように言った。いつもカカシが持ってくるのは肉や魚など、ご飯用の食材だっ
たからだ。
「チョコ、お好きだったんですか?」
「チョコ大好きです!!」
心臓をばくばくとさせながら、カカシは急き込むように大声で答えた。本当は甘いのが苦手だったが、これには
理由がある。
カカシが持ってきたのは、溶かし用のチョコだった。いわゆる、手作り用だ。カカシはごくっと喉を鳴らし、今
日この時まで何度も想像しては練習してきた言葉を言った。
「それで、俺…、い、イルカ先生の作ったチョコが食べたいです…っ!」
カカシは握り締めた手に汗を掻き、頬を紅潮させた。言った。言えた!ドキドキしてイルカがどんな反応を返す
のかと待っていると、イルカはきょとん、としていた顔を綻ばせた。
「ええ、いいですよ。お安い御用です。上手く作れるか分かりませんが…」
待ってて下さいね、と言い置いて、イルカは台所へと消えた。カカシは感動の余りぶるぶる震えた。やった!で
かした自分!
きっとイルカにとっては、別段今日がバレンタインだということなど、頭の端にも無く引き受けたのだろうが、
そんなことなどどうでもいい。要は、この日にイルカから手作りのチョコを貰う、ということ意味があるのだ。手
作り。その辺の店で買ったのでもなく、あのイルカからの手作りチョコ。
カカシは浮き足立つのを必死に堪え、居間へと向った。
イルカは鼻歌を歌いながら、チョコとそして夕餉の匂いをさせた。
カカシは新婚気分を味わいながら、じっとイルカが作り終えるのを待った。
■ ■ ■ ■
「カカシ先生―、出来ましたよ」
その声にがばっと身を起こし、カカシはすぐさま台所へと向った。いそいそと作られた食事を、居間へと運
ぶ。いつも、二人は居間で食事を取っていたのだった。今日のメニューは、カカシ大好物のサンマの塩焼きだっ
た。それに肉じゃがと、お味噌汁。カカシはここでも幸せを味わった。もしかして、イルカは自分が好きなのか
もしれない。そう思えて幸せだったのだ。
この食事を終えたら、チョコレートだ!そう胸を高鳴らせて、いただきます、と箸をご飯につけた。…が。
「…あれ、このサンマ甘いです…ね…」
不思議と、塩焼きのはずのサンマが甘い風味がした。腸がどろっとして箸についたのを、邪魔だなと思って舐
めた。そして驚愕した。
「こ…これ…!?」
「ああ、
チョコレートですよ」
カカシは唖然としてイルカを見た。イルカは平然としていた。
「サンマもチョコも、カカシ先生の好物でしょう?何か、ご馳走っぽいかなーと思って。それに、腸って苦くて嫌だ
けど、チョコだと得した気分になりませんか?いやぁ、最初はチョコレートで料理作るのって、難しいなぁと思っ
てたんですが、いいアイデアでしょう」
にこにこにこ、とイルカは笑顔で言った。そしておいしいですか?と聞いてくる。
カカシは張り付いた笑顔で、掠れるような声で「はい」と返事を何とか口にした。そして心の中で滝のような涙
を流して、ご飯といっしょにかっこんだ。
甘いのにほろ苦い、バレンタインの夜。
終
(up日不明)