黒き焔弐

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 木の葉の国への距離はあと僅か。もう町が見えてきた、そんな小高い丘の上に立ち、カカシ達一行は息をついた。
「あとちょっとです。ほら、あそこ」
 ゲンマが町を指差した。あそこが木の葉の国の町だと。
 カカシとイルカは、初めて足を踏み入れることになる木の葉の国を見下ろし、感慨に耽った。ようやっと、ここまで来たのだ。
「そこにある町を抜ければ、長の住む屋敷に辿り着きます。今夜は、この町の宿で休憩しましょう」
「宿…?」
 知らないカカシとイルカがきょとんとした。
「国の使者を泊める家です。町に一軒、長が建てたものがあるのです。寝床などお粗末なものですが、野宿よりいくらかマシですよ」
「そんなものがあるのだな」
 カカシは感心するように言った。
 もう日も陰り、青空が茜色に染まりつつある。
 今まで森の木陰で寝転んでいたが、今夜は家屋で久しぶりに眠れると、一行は喜んだ。
「……っとと、町に入る前にですね」
 減摩は、布を取り出して、カカシの頭に被せた。
「ちと人目を引きすぎることになるだけに収まりそうにないんでね。我慢して下さい」
「分かった」
 銀髪に赤と青の眼。初めて眼にするであろうその出で立ちは、町の者に恐怖を与えるかもしれないことは誰でも分かった。


 町に入れば、活気あふれる人並みが、往来を行き来していた。畑から取って来た穀物を運ぶ者、水を汲みに行く者、戯れる子供達の群れ。そのどれもが、夕陽に照らされてオレンジ色に染まっていた。
 カカシもイルカも、そんな町の光景を見るのは初めてだった。物珍しげに辺りを見渡しながら歩いていると、ふと、若くて美しい女がこちらを見ているのが見えた。その女は、じいっとカカシを見ているようだった。そのことに気付いたイルカは、面白くないものを感じた。よくよく見れば、往来の端にたむろう女達も、ちらちらとカカシに視線を向けているようだった。すれ違う人並みも、カカシを振り返る。ボロを纏ってはいても、血筋の良さの知れる凛とした姿。布を被せてはいても、漏れる顔の輪郭は、端整であろうことが窺える。
「どうしたイルカ?」
 イルカの雰囲気が変わったのを察知したカカシが、イルカに声をかけた。イルカは慌てて、笑って首を振った。
「いえ、別になにも…っ」
「そうか?」
 少しだけ、風がざわめいたような気がしたが、別に空は晴れたままだし、風が強くなることもない。気にすることもないか、とカカシは判断した。
 だが。周囲の視線が気に食わない。
 全てがイルカを見ているような気がして、ムッとしたカカシは、強くイルカの肩を抱いた。これは俺のものなのだと。


 宿に辿り着くと、小さな部屋を二つあてがわれた。元々国の使者に遣わされるのは大抵一人の為、四人一緒に寝れる部屋が無いのだ。
 当然カカシは、イルカと一緒を望んだ。あえてそれに逆らう者も居なかった。…が、羅依銅は嫌な予感を覚えてすぐ様部屋に入ろうとした。その羅依銅を、カカシが肩を掴んだ。
「話がある」
「……っあのっ、俺はっ」
「いーから来い」
 こんな時に王者の威厳発動はずるいと思いながらも、抗えないその強さに羅依銅はずるずると連れられて行った。
 一体どうしたのだろう、ときょとんとするイルカと、にやりと笑って面白がる減摩がそれを見送った。




「だーかーら、俺は知らないんですって!」
 宿の外につれていかれた羅依銅は、手を離されるやいなや、そう言い放った。何の為に連れてこられたのかは、分かっていた。
 男同士の愛し合い方についてだ。

 前に――初めてしようとして失敗したあの夜の翌日に、カカシに尋ねられて、羅依銅は意識を遠のかせた。やめてくれ、勘弁してくれ。どうして俺にそんなことを尋ねるのか。俺はノーマルなんだ、知らないんだ。その半分も口に出来たか怪しいが、ともかく必死に羅依銅は知らないと主張した。
「減摩なら知ってるかもしれん。減摩に聞いてくれねぇかなっ」
 責任転嫁というか。でも実際、減摩は知っているに違いない。いや奴は知っている。
 だが、カカシは。
「やだ。アイツには聞きたくない」
 すぐさま拒否した。
「何で!? 知りたいんでしょう?」
「…馬鹿にされそうでやだ」
 …ああ、なるほど、と思わず羅依銅は納得した。表立って馬鹿になどしないだろうが、言わんとすることは分かる。中々このカカシという人物は、ひとを見抜く力があるなと感心した。そして、男としての自尊心があるのだ。本当は、自分に聞くのも恥ずかしいだろうに。
 羅依銅は、初めてカカシを可愛いと思った。何だ、やっぱり子供なんだと。だがしかし、ただの子供じゃなかった。
「だから、羅依銅が減摩に聞いてくれ」
 我侭大王だった。
「何で俺がーーーっ!?」
 羅依銅は素っ頓狂な声を上げた。
 そんなことを減摩に尋ねようものなら、羞恥プレイよろしく、奴は自分が恥ずかしがったりするのを楽しんでいやらしいことを吹き込んでくるに違いない。それも、巧妙に、そんな気は全然ありませんといった調子で。何で赤くなるのとかそーいった具合に、白々しく。そんなことも知らないのとか、本気で驚いたような顔をしたり。
「やだやだやだっ、絶対に嫌ですっ! そんなこと自分で聞いてきて下さいっ!」
 そして減摩から聞いて来た情報を、今度はカカシに教えなければならないのだ。どうして二度も死にそうに恥ずかしい目に遭わねばならんのだ。
 また王者の威厳を発動されたら敵わないので、羅依銅は叫ぶなり、耳と眼を塞いで、「うわあああっ」と大声を上げながら走り去った。
 カカシはそんな羅依銅の背を見送り、ちっと小さく舌打ちした。
 せめて、あの固い門を、解す方法を知りさえすればいいのに。何かの術を使うのだろうか。それとも、あの穴ではない所に? でも他に見当たらない。
 うーん、とカカシはまた悩んだ。
 ずっと隣にイルカが居て、欲求不満も限界に達しようとしているのだ。出来れば今夜こそと思ったのだが。

 そこに、くすくす、と小さく笑う声が聞こえた。
 女の声だ。
 誰だと思ってカカシはそこへ視線を向けた。
「――可愛いボウヤ。私が教えてあげましょうか?」
 薄暗い外、木陰から、妖艶な雰囲気を纏った女が姿を現した。







(05.04.16+05.04.17up)
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