今は昔の物語。
銀色に輝く其は 何者か――――
火の国の中でも大国・大和の国を統べる一族があった。
やがては火の国全てを統治しようと、領土拡大を虎視眈々と狙っていた。
その音の一族の中に、異変が起こった。
銀髪の上に片目が赤く、片目が蒼い児が、産まれたのだった。
これは鬼の児か、と辺りはざわめき恐れたが、産んだのは長の娘。それに鬼の児を殺せばどんな災いが起きるかも知れず、殺すわけにもいかないと、その児は幼くして岩石の牢に幽閉されることになった。
人は恐れ、一族も恥じて近づく事の無い石牢で、その児――カカシは、一生を過ごすことを余儀なくされた。ただ一名を除いては。
十三の歳、一人前と認められる年齢になった時のことだった。
「さあ入って下さい」
促され、抗うことも無く、カカシはその石牢に入った。ガシャン、と柵を閉じられても、動揺することも無く、泣くことも無い。
やはり恐ろしい餓鬼だ、と内心畏怖しながら、カカシを連れてきた近衛兵は、そのカカシに一人の児を紹介した。
「今日からは、これなる者が貴方様への給仕を勤めさせて頂きます。…おい、礼をせんか」
近衛兵の隣に並ぶ、薄汚い少年は、そう促されてぺこりと頭を下げた。そして顔を上げ、また真っ直ぐカカシを見つめた。
初めて会った時から、ずっとカカシを真っ直ぐ見つめるその黒曜石のように黒く輝く目は、カカシの気を引いた。
今までに、自分をこんな風に見つめた存在は無かった。誰も彼も――カカシの親さえも、恐れてか目を合わそうとはしなかった。
歳の項は恐らく自分と同じぐらい。真っ黒でぼさぼさの髪、薄汚い布を纏った身なり、裸足の足は傷と泥で汚れていた。その足首に、枷があった。奴隷だ。なのに、その瞳は生き生きと輝き、翳ることない。
「…よろしくお願いします」
その少年が挨拶をすれば、近衛兵が少年を引っ叩いた。
「無礼者! 口をきくことは許されぬ!」
「…何をする。お前はもう下がれ」
すると、その近衛兵に、カカシが冷めた声で告げた。しかし、と言う近衛兵は、カカシの有無を言わさぬ強さを持つ目に合うと、押し黙った。鬼の児と蔑まれてきたくせに、やはり長の子、その威厳たる態度はひとを従わせるものがあった。
近衛兵は、少し悔しそうにしながらも、その場を去った。
残された少年は、赤く腫れた頬を手で覆い、それでは自分もと、ぺこりと頭を下げて去ろうとした。
「待て」
しかしそれを、カカシが止めた。
少年が振り返る。
「お前、名はなんと言う?」
「……」
真っ直ぐ見つめていた瞳は、途端に戸惑いに揺れた。返事をしない少年に、カカシはああ、と気付いて言った。
「先程のことは気にするな。あんな奴の言うことなど聞かずともよい。俺は、アンタと話したい。…名は、なんと言う?」
少年は、きゅっと口元を引き結んで告げた。
「…い…イルカ、といいます」
「そうか。――イルカ」
カカシはイルカに近づき、イルカに柵へ近づくように促した。おずおずとしながらも、近づいてきたイルカに、カカシは手にしていた石で突然切りつけた。シュッと、薄くイルカの鼻の上に横一直線の傷が走る。
「――っ!?」
痛みよりも驚きで、イルカは目を見開き戦慄いた。
「印を付けた。これでもう、お前は俺だけのものだ」
「…え……?」
「いいな。他の誰の命を聴くことも要らぬ。俺の命だけに従え」
「……」
「分かったか」
有無を言わせぬ王者の命。
なのにイルカは、笑顔を見せた。
「…はい。カカシ様」
(04.08.17up)