黒き焔
月日は流れ、カカシとイルカはどんどん大きく成長していった。
聞けば、イルカは両親を戦いで亡くし、孤児として拾われ、奴隷に身をやつしていた。
イルカは来る日も来る日も、カカシの元へ食事を届けた。
牢の柵が開かれることはない。
いつも柵越しに二人は会い、イルカは国の近況などを語った。カカシはイルカと会うことのみが、石牢の中での唯一の楽しみで、ある意味では牢に繋がれてからの方が、カカシは幸せであった。
そんな風に、月日は流れていった。
石牢は広く、奥には滝が流れていた。
カカシはそこで身を洗っていた。
もうその身体も、一人前の男に成長していた。歳の項は、十七になっていた。
「…カカシさん?」
様付けはやめろと、何度も何度も言われたイルカは、やっと根負けして、カカシさん、と呼ぶようになっていた。
イルカは昼食を持ってきていたが、いつもこの時間には、柵の前でイルカを待っていたカカシの姿が見えず、名を呼んだ。奥の方に居るのだろうが、どうしたのだろうか。
「カカシさん? 気分が悪いんですか?」
気遣わしげにイルカが問うと、足音が奥から聞こえてきた。
「…っわあっ!」
思わずイルカは、回れ右をした。
カカシが素っ裸で登場したからだ。
「何その態度。アンタが何度も呼ぶから、服を着る間も惜しんで来たんでしょ?」
「ふ、ふふ服ぐらい着てきて下さいっ! 水浴びしているならしていると、言ってくれればいいんですっ!」
風が、ぴゅうと辺りを騒ぐ。石牢の中にも、風が吹くとは、外は暴風なのかもしれないな、とカカシは冷静に思った。
「…そんな動揺しなくていいんじゃない? 男同士なんだし」
言いながら、少しニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、カカシは身体を拭いた。
「だ、だって…、俺ごときが素肌を見るなど…」
けれどもそんな言い訳を始めたイルカに、カカシの機嫌が曇った。
「…そーいう言い方好きじゃないって、言ったよね?」
平坦な口調でありながら、怒っているのだと長い付き合いでイルカには分かった。
「すみません…、俺、本当はただ…何ていうか、驚いたっていうか…」
イルカはしどもどとした口調で言った。
もういいよ、と言われて振り向くと、カカシはまだ服を着ていなかった。
「あっ」
また振り返ろうとしたイルカを、カカシは腕を伸ばして引き寄せた。カカシの腕の中に仕舞い込まれる。
柵を挟んでだから、二人の胸が重なることはない。
だが、互いの心音が伝わっているような錯覚がした。耳元にドクドクと脈打つ音が聞こえる。
「…俺は見たいよ。イルカの全て」
「…え…」
イルカの頭部を掻き回す、カカシの優しい手つき。
「アンタを、こんな柵越しじゃなくてちゃんと抱き締めたい」
告げられて、イルカは何も返せずに俯いた。
最近、こんな風にカカシはイルカに触れてくるようになった。睦言めいたこともその度囁いてくる。
イルカは、きっとカカシが自分しか居ないから、こんな風に思うのだと思った。カカシにとっての他人は、自分しか居ない。
――そう思いながらも、告げられるたびに鼓動は激しくなり、泣きたいような気持ちになる。
「…いつか…」
「え?」
「いつかここを抜け出すことが出来たら、アンタはついてきてくれる?」
イルカは大きく目を開き、呆然とカカシを見上げた。
(04.08.18up)