黒き焔
カカシはどんなつもりで、あんなことを言ったのだろうか。
イルカは悶々と考えながら、石牢を出て歩いていた。
空はどんより暗い。
そんな空を見上げ、イルカは溜息を吐いた。
今にも泣き出しそうな空に、ああ、自分は今こんなにも衝撃を受けているのかと思った。
イルカには、天候を操る力があった。
操る、というよりは、イルカの心に共鳴するかのように、イルカの心のままの天気になるのだ。
それはイルカが望む望まないに係わらず。
そしてこの力のことは、誰にも告げていなかった。カカシにさえ。
カカシはあそこを出たいのだろう、それは分かる。誰だってあんなところに何年も、この先もずっとだと思うと気が狂う。
出来るなら、イルカだってあそこを出してあげたい。
天候を操る力はあれど、柵を壊す力の無い自分に嫌気が差した。
カカシの言葉を思い返す。
『いつかここを抜け出すことが出来たら、アンタはついてきてくれる?』
そんなもの。
答えは明らかだ。
けれどもと、足元を見た。
自分の足にかけられた枷。
ある一定の距離を離れると、呪印が浮き出て心臓を停止させるというこの枷が、あるのだ。
ついていきたい。
――でもついていけない。
そんなことは、カカシにも分かっているはずだ。
ぽつ、ぽつ、と、雨が空から降ってきた。
それはやがて、大粒の雨となり、暫く降り続いた。
それからは、カカシの態度はいつもと変わらぬように思えた。
たまにからかうように触れてきたり、けれどもそれは、以前のような執着を感じるほどではなかった。
最近の空は曇り続きだ。
イルカは言い知れぬ不安に、怯えていた。
そんなある日、イルカが森に、カカシに木の実をと思って取りに行った時、その森を出ようとすると、人影が過ぎった。
素早いその動きに、影しか見ることが出来なかったが、どうやらその影は、カカシの居る石牢へと向ったようだった。
「……」
嫌な胸騒ぎに、イルカは足早に石牢へと向った。
いつも三回の食事の時ぐらい、あとはカカシの用のある時ぐらいしか行かなかったが、イルカは石牢の中へと入った。
そおっと覗き込むと、そこには、カカシと女が居た。
黒髪が艶やかで美しい女だった。
「……!」
イルカはその場を駆けだそうとした。その時、足音をさせてしまい、カカシがイルカに気付いたようだった。
「…何奴!?」
女の声がして、いつの間にかイルカの前に立ちふさがった。
「あ…」
イルカは、どうしようかと戸惑った。
「…イルカだろ? おい紅、大丈夫だ。イルカ、こっちに来い」
するとそこに、カカシの声が聞こえてきた。
「…アンタがイルカ?」
紅、という名らしい、美しい女がまじまじとイルカを見つめ、そしておいでと言ってカカシの元へ引き返した。イルカもどうすべきか躊躇ったが、そのまま紅の後に続いた。
「……」
困惑した表情で、イルカはカカシを見た。
「いつか話そうと思っていたけど…、俺は、明後日にこの牢を出て大和の国を抜ける」
「……!?」
「そして、木の葉の国へ行く。この紅と一緒に」
「…え…」
木の葉の国とは、大和の国と並び立つ大国だった。では、敵対国へ行くというのか。
…この女と一緒に。
「私は木の葉の国の者。他にも数名、仲間と一緒に来ているわ。木の葉の国なら、彼の力を認められる」
そう聞いて、イルカは納得した。
カカシは、自分の居場所を見つけたのだ。自分を認めてくれる所を見つけたのだ。
たかだか髪や目の色で恐れられていたが、イルカにはカカシの秘められた力や、人の上に立つ才覚があることを知っていた。
…だったら、自分は笑って見送らなければ。
自分も連れて行くとは言わないカカシ。そういうことなのだ。
「…そうですか」
イルカは笑った。
外は土砂降りの雨だった。
(04.08.19up)