黒き焔【番外】
大和の国から、木の葉の国に行くまでに、いくつもの山を越えて行かねばならぬ道程。
それは一日ではとても抜けきれるものではなかった。だから四人は、一旦途中で休息を
取ることにした。
刻は夜半。一日中歩き続けた四人は、へとへとだった。特にカカシは。
鬱蒼とした森の中に、減摩はとある場所を見付け、ここにしようと言った。平坦であまり
凹凸の無い地面で、寝転ぶにはいい場所だった。
「それにここなら温泉が近くに在る」
「えっ温泉っ!? そんなものが!?」
驚いて声を上げたのはイルカだった。温泉など噂に聞くだけで、入った事が無い。憧れの
ものだった。
「何それ?」
「温泉というのは、沸かされた湯が地底から湧いて出ているのですよ」
「へえ?」
よく分からないながらも、カカシは頷いた。
「何なら二人さん、もう入って来られたら? かなりお疲れでしょう。温泉は、疲れも
取れますよ」
「…湯に入るのか? 死なぬのか」
「入っても大丈夫な温度です。猿も入りに来ますよ」
「猿!」
カカシは温泉より、猿に興味を引かれたようだった。
イルカはくすりと笑った。外の世界は、カカシにはとても新鮮で楽しいようだった。
「行こうイルカ! さ、早く!」
「えっカカシさん…っちょっとっ」
カカシはぐいぐいとイルカの腕を引いて走った。つられてイルカも走る。
減摩と、共に木の葉から来た羅依銅は、ふうと息を吐いてその場に在る木に凭れ掛かって座った。
「…あ、風呂汚さないように言うの忘れてた。俺等後で入るのに」
「は? まさかそんな、垢落としなんて盛大にせんだろう」
減摩が言うことを、不思議と思って羅依銅が返すと、減摩は意味有りげな視線を向けた。
それを見て、暫ししてから羅依銅は何のことか察し、赤くなった。
減摩が指し示した方向へ走ると、なにやら嗅いだことのない変な臭いがしてきた。緊張
しながらも進むと、果たしてそこには、湯気立つ泉が在った。
「これが温泉か…猿は居ないねぇ」
「も、もう…、さっきまであんなに疲れていたくせに」
やっと止まったカカシに、息を整えながらイルカが恨めしげに言った。そして前方に在る
温泉に遅ればせながら気付き、目を輝かせた。
「わあ…これが温泉! 凄い、本当に湧いている」
イルカは駆け寄って、湯の中に手を入れた。丁度いい湯加減です、と笑う。
「じゃ、入ろうか」
「…え…」
言うが早いか、カカシは服を脱ぎだした。
「あ、ちょっ、カカシさんっ」
「アンタも早く脱いでおいで」
カカシは脱ぐと、躊躇いもなく温泉に入って行った。ふぅ、と息を吐く。
「なるほど、熱い…」
イルカはごくりと唾を飲んだ。入りたい。
けれどもカカシとは嫌だった。
『カカシ』と入るのも嫌だし、『主人』と入るのも恐れ多い。
「お、俺は…後で入ります…」
「駄目。言うこと聞けないの?」
しかしカカシの強い言に、ううう、と唸りながらも逆らえず、イルカは渋々と服を脱ぎだした。
恥ずかしいが、夜だから暗くて見えない、ということを願い、えいやと温泉に入った。
「っわあ…、凄い…!」
暖かい湯に入ることなど無かったので、初めてのその感覚にイルカは感動した。
何だかとても気持ちいい。
二人で入ると、割りとゆったり出来る温泉だった。
嬉しそうに湯と戯れるイルカを見ていたカカシは、やがて身をイルカに寄せた。
「カカシさん…?」
カカシはイルカの背後から、イルカをぎゅっと抱き締めた。
イルカは瞬時に赤くなったが、別段抵抗せずに、カカシの腕の中にすっぽり収まった。
「やっぱり細いな…もっと肉付けなきゃ」
「そ、そんな、カカシさんこそ…あっ」
カカシの手が、イルカの胸部から腹部にかけて撫でる。そしてその手が、脇にいった。
「何…何ですか…」
イルカはその手に、恐ろしいものを感じた。特に脇を撫でられると、ぞくぞくとしたものが
背筋を走った。イルカは唇を引き結び、前屈みの体勢で、少しでもカカシから離れようとした。
「イルカ…」
カカシは、目の前に投げ出された背中にキスをした。ぴくん、と反応して、イルカは後ろを
振り返った。
「…カカシさん…」
少し怯えを表情に出したイルカに、カカシはぞくりと欲情した。
カカシはイルカの顎を取り、唇を初めて重ね合わせた。
「んぅ…っ」
初めてのことにイルカは驚き、唇を引き結んで目をぎゅっと閉じた。
カカシは一旦離れたかと思うと、また口付けた。イルカの唇の甘さに、その唇を舐めると、
イルカはぶるりと震え、口を少し開けた。
イルカは、開けた唇から何か生暖かいものが入ってきて、自身の咥内を蹂躙し、舌にも触れた時、腰が痺れて
イルカは少し湯に沈んだ。酸素を上手く取り込むことが出来ずに、意識も白くなっていく。
ずるずる、と湯の中に沈んでいくと、漸くカカシが唇を離した。
イルカは開放され、はぁはぁ、と息を吐いた。
「イルカ…」
カカシが熱っぽく囁くと、イルカは瞳を開いて、カカシを仰ぎ見た。
「ずっと…ずっと欲しかったんだ…」
「…カカ…さ…?」
あまり呂律の回らぬ舌で名を呼べば、カカシはまたイルカに覆いかぶさり、今度は首筋に
顔を埋めた。
ホー、ホー、と梟の声が木霊する。
減摩は夜空を仰いでいた。
一方羅依銅は、落ち着かない様子でそわそわしていた。
「お…おい減摩」
「…何だ?」
「あの二人、遅いよな? ま、まさか本当に…」
赤いのか青いのか分からぬ相で羅依銅が言った。
「何うろたえてんだよ。好いた同士、おかしくあるまい」
「だっだってまだ二人とも子供じゃないかっ!」
「十二越えりゃ立派な大人だろ」
「…そうだな」
「ああ。そううろたえずに、夜空でも見てろよ。綺麗だぜ」
「……」
少しの間黙り込んでいた羅依銅は、また口を開いた。
「でも…でもさ…。そういえば、火影様は、あの子の天候を操る力を紅から聞いて、
『そりゃもしかすると雨壬乃巫女の末裔かも知れん』って言ってたろ? でさ、
『だとしたら、処女で無くなれば力は消える』って」
「そういや、言ってたかな」
「じゃ、じゃあやばいじゃんかよ!」
「…でもさ、男で『処女』ってどうなんの?」
「……」
「……」
「…そりゃ…」
「何だ?」
羅依銅は、ごろんとその場に寝そべった。
「…夜空が綺麗だなぁ…」
「………ああ…」
二人して、暫く夜空を見上げていると、段々その空が曇り始めてきた。轟々、と音を立て、
それはすぐに蔓延り、雨雲を呈した。
「あれ…雨?」
言ったと同時に、物凄い雨量が辺り一面に降り注いだ。嵐のように、風もきつく、稲光さえ
する。
「こ、こりゃ…巫女サマのお力か?」
二人、木に張り付いてみても、無駄なことと思えるようにずぶ濡れになっていた。
「だとしたら男に処女は無いか…それともまだヤってないか」
「おいっ、そんなことじゃなくてだな、これって普通じゃないぞ! 何が有ったんだ!?」
「さあ…お前見てこいよ」
「何だよお前も来いよ」
「もし濡れ場だったら嫌だなと思ってさ」
「…え?」
「カカシって若いし、その手の知識が無さそうでね。痛いんじゃないかなとか」
「……」
「……」
「…たまには雨に濡れるのもいいな…」
「………ああ…」
もう二人は、何も考えないようにして、木に張り付いていた。
一方、カカシとイルカは、二人して大変なことになっていた。
「い…痛い、痛いですっ」
「硬い…っ、緩めてくれない?」
「ど、どうやってっ?」
カカシは自分の腰の上に、イルカを跨らせて腰を下ろさせようとしていた。
自身の硬くなったモノを、イルカの解してもいない秘所に押し当て、挿れようと
していたが、未だかつてそんな行為をしたこともなければ、硬いまま処方されても
いない所にカカシのモノが入るはずが無かった。
イルカは痛さに涙を滲ませるが、カカシもここまできて止めれなかった。何とかして、
と思えども、一向に進まずイライラしてくる。
ぐっと掴んだ腰を引き下ろそうとすると、イルカは痛みにとうとう耐えかね、泣きじゃくった。
空が曇り出す。
カカシは、チッと舌打ちすると、イルカの腰を放した。
イルカは力の入らぬ腰に、ずるずると湯の中に腰を下ろした。そうして最初は、ホッと
していたが、カカシを見れば、苦悶の表情をしていた。
「ご…ごめんなさい…」
そんなカカシを見て、イルカは嫌われたと思って、また涙を盛り上がらせた。
空はゴロゴロと鳴り出し、途端に雨が振り出した。風も凄い。
「…あーっと」
カカシは余裕が無いながらも、そんなイルカを引き寄せ、背を擦った。
「ごめん…も、泣かないで」
頬にキスをする。
イルカは幾分ホッとして、そうすると空も雨が止みだした。
イルカの頬に当たるカカシの吐息が熱く、苦しそうで、イルカはカカシを何とかしてあげたい
と思った。
ごくりと唾を飲み、おずおずと手を伸ばし、カカシのそれに触れた。
「…っ!?」
カカシは驚いたが、イルカはそんなカカシを見ている余裕は無かった。ただ、たどたどしくも
それを擦りだした。初めて触る他人のモノは、自分のとは違うように思えた。何だか怖かったが、
イルカは必死にそれを吐き出させようとして擦りあげた。
「…はっ、イルカ…」
その愛撫は決して上手くは無いが、カカシは他人に触られたのも初めてで、
自分でするよりはずっと気持ち良かった。何よりイルカが、自分を思ってしてくれている、
そう思えば快感は増した。
やがて欲望を吐き出すと、カカシもイルカもふう、と息を吐いて弛緩した。
カカシはイルカを抱き寄せると、耳元に告げた。
「今度はアンタも気持ち良くさせてみせるから…」
イルカは、ふるふると首を振った。
「いいえ…、俺は、こうしているだけで、とっても幸せで気持ちいいです」
だからもうあんな怖くて痛い思いはしたくないと思った。
カカシは少し勘違いをして、こんな可愛いイルカの為に、何としても上手くなろうと思った。
その為に、誰かに聞くしかないと思った。
翌日。
よりにもよってカカシは羅依銅に尋ね、羅依銅の意識を遠のかせたのだった。
(04.08.21up)
色々とごめんなさい…。遊びと許して。
雨壬乃巫女(ウミノミコ)=宇宙の皇子(ウツノミコ)のシャレです。