クリスマス編前篇
街はいつの間にかクリスマス一色に染まり、浮ついた雰囲気がそこかしに流れていた。
それは忍び社会でも同じことで、ここ上忍待合所でも、ベンチに腰掛けては今年の
クリスマスはああだこうだという声が聞こえてきた。
「…で、カカシお前はどうするよ? 今年は。例年通り俺らで飲み会有るんだけどよ」
アスマはその一角にカカシと紅と三人で座って、正面に座るカカシに話し掛けた。
アスマや紅、ガイなど一部の割合よくつるむ上忍達で、いつからかクリスマスは飲み会をして
いた。皆それぞれ恋人と過ごしたりはしないのだった。といっても恋人が居る奴も居なかった。
「ん〜…、どうしよっかな」
カカシは即答せず、悩みだした。それにアスマと紅はおや、といった顔をした。
「何だよてっきりイルカと過ごすのかと思ったぜ」
アスマはカカシとイルカが恋人同士だと思っていた。実際は思い切りカカシの一方通行なの
だった。
「そうしたいのは山々なんだけど…、クリスマスに誘うってことは、それってつまりイルカ先生
に気があるって言ってるようなもんでしょ」
「…は? 気があるも何も、お前ら付き合ってんじゃねーのか?」
「付き合ってる!? い、いつ何処で誰と誰が!?」
凄い剣幕のカカシに勢い負けしたアスマは、あ、いや…と引いた。違ったのか。何かおかしいな
とは思ってたのだが、イルカの対応をカカシから聞く限りではまんざらでも無さそうだったので、
付き合ってるのかなとか思ったのだった。だって旅行も行くし、しょっちゅうカカシはイルカの元へ
食事をしに行き、イルカは手料理を振舞っているのだ。そう思わない方がおかしいではないか。
しかし勘違いするのも無理は無く、アスマは、イルカが大の守銭奴とまでは聞いてなかったのだった。
お金の為ならイルカがどう動くかなど分かっているはずがなかった。
クリスマス。出来たらイルカと一緒に過ごしたい。けれどもいつものように家に訪れるのも
気が引ける。だってクリスマス、イルカにだって都合というものがあるだろう。突然行けば
嫌な思いをさせるのかもしれない。かといって、さっき言った理由で事前に約束をすることも
カカシには出来なかった。今のイルカに告白などしようものなら、惨敗は目に見えていた。
「ああでも、俺と一緒になると裕福になれますよ、高給取りですから…なんてのもなー。
俺じゃなく金選んでる感じだしな…」
カカシがぶつぶつと呟くのを、気持ち悪いものを見る目で二人は見た。恋に悩むカカシと
いうだけでも十分二人には気味が悪いものなのだった。
「…そんなの、軽い感じで誘えばいいじゃない。食事に行きませんかとか何とか言ってさ。
案外何も考えずに簡単に受けるんじゃないの? 旅行とかだってそうだったでしょう?」
そこで初めて紅が口を開いた。紅は、イルカというものを分かっているようだった。流石
女は鋭い。
「夜景の見える綺麗なホテルでフルコースのディナー。その後はムードに乗ってそのホテルの
最上階スウィートルームでご宿泊。女の子憧れのクリスマスコースなんてどう?
更には豪華なプレゼントでベッドもオッケーしてくれるかも」
「おいお前、いくらなんでもそりゃ…」
アスマが呆れたように言いかけた時、カカシはガタンと立ち上がった。
「! く、紅…お前賢い。それでいってみるよ、サンキュ!」
イルカは女じゃないとか何とか色々突っ込み所の多い提案にも、カカシは思い立ったが
吉日と言わんばかりに走り出した。
「…全く、あの単純馬鹿にんな提案しやがって。ちょっと可哀想じゃねーか。いくらなんでも
イルカが乗るわけねーだろ、スウィートなんてよ。おかしいと思うって」
「あら、そんなの分かんないじゃない。それに私も今年はそのコースだし」
「…は?」
紅もガタンと立ち上がった。
「ってことで、今年は私も飲み会はパス。じゃあね」
「あっおい…!」
アスマの制止の声も聞かず、紅は部屋を出て行った。バタンとドアが閉まってから、
アスマは息を吐いた。
「…ったく、女って何考えてんだか分かんねー」
■ ■ ■ ■
「い、イルカ先生っ!」
「あれ、カカシ先生。こんにちは!」
カカシは走り、イルカの住むアパートを目指していた時、その前方にイルカが歩く姿を見つけ
ることが出来た。カカシが後ろから声を掛けると、振り返ってにっこり笑う。やっぱり可愛い。
「じ、実はですね…、24日、その、ホテルでディナーなんてどうかなーと思って」
真っ赤になりながら、カカシは誘った。イルカはきょとんとした後、24日…と呟いた。
カカシは宣告を受ける人のように、ドキドキと破裂しそうな心臓で答えを待った。
「ああ、クリスマスイブですね。すみません、駄目です」
カカシは、ガーン! と、大きなショックに包まれた。クリスマスイブだから断られたと
いうことは。いうことは…!
そんな気落ちしまくったカカシに、イルカは構わず続けた。
「その日は、サンタをすることになっているんですよ」
そのイルカの意外な言葉に、カカシは少し浮上した。
「…え、サンタ…?」
「ええ。俺、毎年クリスマスイブは、木の葉孤児院でサンタさんをしているんです」
へへ、とイルカは鼻の下を擦って笑った。カカシはまじまじ…とイルカを見返した。
「毎年…? そ、それじゃあ…イルカ先生、もしかしてお金貯めてたのは…サンタをするから?」
あれ程守銭奴にお金を貯めていたのは、お金に五月蝿かったのは、そういうことだったのだ
ろうか。孤児院の子供達にプレゼントをする為に…。
「何の話ですか?
お金はお金、サンタはサンタでしょう?」
しかしイルカは、本当に分からないといった顔でそう言った。
「…は、はい…」
カカシは小さくなって言った。思わずすみません、と付けたくなった。
「そうだ、それよりカカシ先生も一緒にどうですか?」
「…え?」
「サンタです。俺と一緒に、サンタをしてくれませんか? …嫌ですか?」
暫し茫然としていたカカシは、イルカが言うことの意味がじんわりと脳に溶けていった。
サンタを一緒に。ということは、クリスマスイブは一緒に居られる。
「は、はいっ! 喜んでお供させて頂きますっ!」
カカシが勢い込んで返事すると、イルカは圧倒された後、くすくすと笑い出した。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね。カカシサンタさん」
「はい!」
カカシは喜びに胸をいっぱいにし、もうすぐ来るクリスマスイブに想いを馳せたのだった。
(03.12.24up)