想い秘かに

温泉旅情編1

 カカシはイルカと、温泉へと向った。
 イルカは旅館を見て、その豪華さに眼を輝かせた。そして部屋の中に入ると、無邪気に辺りを見渡し、大喜びする。
 高かったけど、ここにして良かったとカカシは思った。嬉しい。
「わーっ見て下さいよ!お茶請けにこんな高価そうなお菓子を!俺が以前行ったとこなんて、せんべい一枚だったの に!お茶までリッチですよ、凄く色が出ます〜!いい香り!」
 イルカはカカシの分のお茶も淹れてくれ、二人でお茶を啜った。とても穏やかな気分だった。
 イルカが残りのティーパックを懐に入れたのは、見なかったことにした。
「あれ、イルカ先生…何するんですか?」
 イルカはごそごそと荷物の中から、電気製品を取り出した。そういえば、ただの一泊二日にしては荷物が多いなと 思っていた。
「え、ああ、充電池を充電するんです」
「そうですか…」
 携帯だろうか? と思ったが、取り出したのは違う形だった。しかも一つでなく、バラバラと取り出す。充電用の 乾電池や髭剃りまでは理解できたが、何とハンドクリーナーまで取り出した。
「……」
 カカシは少し学習したので、あえて突っ込むことはしなかった。甘い甘い、これからの時間の為に。



■  ■  ■  ■



 荷物を片し、少し落ち着いた頃、イルカは言い出した。
「カカシ先生、温泉行きましょう!」
「え…っ?」
「折角温泉に来たんです、早く入りに行きましょうよ」
「でも、夜入らないんですか?」
「何言ってるんですか、今入って、晩御飯の後入って、そして夜も入るんですよ」
「さっ三回も!?」
「そうですよ。温泉の常識ですよ」
 元を取らなきゃと、イルカはさも当然といった調子で言った。カカシは一日に一回も入れば十分だと思っていたの で、何のために三回も入るのか理解出来なかった。しかし相手はイルカ。反論するだけ無駄だし、愛するイルカの要 求には答えたい。…が。
「あの…一緒に…入るんすよね…?」
 心臓をドキドキさせながら聞くと、イルカはパチクリ、と瞬きし、ええ、と何を言ってるんだという調子で答えた。
 イルカとお風呂。即ち素っ裸!
 カカシはそう思っただけで、鼻血が出そうになった。
 イルカが生まれたまんまの裸体を今夜というか今自分に披露するのだ。まだ結婚もしていないのに…!
 というかまだ付き合ってさえいないのだが。それ以前に男同士なのだが。カカシは異様に興奮した。
 イルカはカカシに備え付けの浴衣を手渡し、早く行こうと急かした。




 旅館の温泉は、下の階の奥に有った。
 男女別になっていて、脱衣所に入り、カラリと大浴場の戸を開けるとがらんとしていた。温泉の湯気だけが辺りに 立ち込めている。
「この時間だからかな、空いていてラッキーですね。まるで貸切です」
 誰も居ない温泉の風呂場を見て、イルカは嬉しそうに笑った。
 しかしカカシはそれどころでは無かった。
 二人きり。二人きり。
 二人っきり。
 そればかりが頭の中をエコーして、心臓が茹でたようにバコバコいい、頭から爪先までを蒸気させた。
「あれ、どうしたんですか? まだ入ってないのにもう火照ってるみたいですよ。湯気にやられたのかな」
 笑いながらイルカが言った。そして一旦戸を閉め、いそいそと服を脱ぎだした。
 それすらも視界に入らないくらいに、カカシは今頭の中が沸いていた。そして気が付くと、イルカは既に居なかっ た。
 ごくりとツバを飲み、カカシはキリ、と顔を引き締め、震える指を叱責しながら服を脱ぎ始めた。
 落ち着けカカシ。
 落ち着け写輪眼。
 落ち着け上忍。
 あらん限りの自分の呼び名を連呼し、カカシは平常心を取り戻そうと頑張った。
 そう、自分は6歳で中忍になった天才エリートで元暗部で今まで冷酷非情な任務も何度もこなしたビンゴブックに 載る他里にも知れ渡った里の誇る上忍の中でもトップクラスの二枚目美形で言い寄る女は数知れず引く手あまたの男 だ。
 そこまでを一気に読み上げ、カカシはようやく落ち着きを取り戻した。
そうだ、自分はこんなにいい男だ。裸にも自信がある。これしきのことでうろたえるような神経の持ち主でもない。
 カカシは最後の一枚を脱ぎ終え、タオルを手に戸をガラッと一気に開いた。
 真っ暗だった。
 いや、カカシはつい瞼を閉じてしまっていた自分に気付き、そろりと視界を開いた。
 すると、湯気の向こうには…誰も居なかった。
「…あれ?」
「カカシ先生、お先にー!」
 すると後ろから声がして、慌てて振り向くと、もう旅館の浴衣を着たイルカが今にもそこから出て行こうとしてい た。
「え…っイルカ先生!? もう出られたんですか!?」
「? ええ。だってなかなか入ってこないし、俺が出て声をかけても何かぶつぶつ言ってたじゃないですか。やっぱ り気付いてませんでした?」
「………」
「上忍ともなれば大変ですね。服を脱ぐ間も術の鍛錬ですか」
 にっこり笑って言うイルカに、カカシは気が抜けた声で「はぁ」としか言えなかった。





(03.07.13up)