第九話「これからどうします?」
「わあ、これいいなー新作かー!」
イルカは、Tシャツを広げて言った。
ここは百貨店内の、ポールスミスの店の中。カカシはイルカを連れて、
色々と物色をしていた。そんなカカシの隣には、店員が付いた。このブランドの服を着ていれば、
そうなるだろう。
しかしカカシは何かと説明してくる店員を無視し、イルカの手にしたTシャツを見た。
「そーゆーのが好み?」
「はい。シンプルだけど個性的でいいですよね」
イルカはにこりと笑った。
カカシはやっぱりこのブランドが好きなのだろうと思っていると、カカシはふーんと言ったかと思えば、
「これ包んで」と店員に言った。
もしかして…と不安に思ってカカシを見上げるイルカに、カカシは気付いた。
「どうしたの?」
「カカシさん…が、着るんですよね?」
「違う。アンタへのプレゼント」
「あ、あのちょっと、店員さん待って下さいっ!」
慌ててイルカが店員を追うと、カカシは首を傾げた。
「違うのが良かった?」
「いえそーじゃなくって! 俺、もうプレゼントなんていらないですから」
イルカは必死な顔で言った。するとカカシは、少し寂しそうな顔をした。
「…そうか…いらないのか…」
ぽつりとそう呟いたカカシに、イルカは何故か罪悪感にとらわれた。
「いえあの、プレゼントがイヤとかじゃなくて、俺もう携帯を貰ってるし、
これ以上は申し訳ないというか…その」
しどもどにカカシに言い訳を始めると、カカシは寂しそうな顔のままで言った。
「携帯はお礼だって言った」
何処か拗ねたような響きが有った。イルカはもうどう言えばいいのか分からなかった。
こんな顔をされると、断る自分が人の真心を踏み躙る酷い奴に思えてくる。
「…あのー、どう致しましょう…?」
呼び止められたままだった店員が、黙り込んだ二人に、困ったようにしてそう口を開いた。
イルカは店員が困っていることにどうしようと慌て、カカシを見てもカカシは店員もイルカも見ずに、
そっぽを向いていた。
ええいくそ、という気持ち半ばに、イルカは店員に告げた。
「…それ下さい…」
第九話「これからどうします?」
店を出て数歩、カカシは服の入った袋を、イルカに渡した。渡されたイルカは、それを受け取り、
じっとそれを見た。小さく息を吐いて、しかし吹っ切れたような顔を上げ、カカシに向けた。
「ありがとうございます、カカシさん」
にこりと笑って言われ、カカシも嬉しくなった。
今まで人にプレゼントなどしたことが無かった。強請られたことはあっても、
別段やりたいと思わなかった。だから、いざあげるとなると、
どんなものをあげればいいのか分からなかった。
しかし昨夜見たテレビが役に立った。テレビで女達は、誕生日プレゼントに貰って嬉しかったものを
口々に言った。シャネルのバッグだグッチだヴィトンだ、指輪だ何だと貰ったものを挙げたが、
最終的に印象に残ったのが、欲しいものを貰えると嬉しいと言った言葉だった。
イルカは喜んでいるようなので、これで良かったのだと思った。
どうしてこんな風に思うのかは分からないが、イルカが喜べばあげたいと思う。
イルカはお金のことを気にするが、カカシは財布の中身が気にならなかった。無くなればまた稼げばいい。
テレビでは、ショッピングに行き、その後はホテルでディナーと言っていた。
しかし、別段買いたいものも無いのに店を見て回る趣味は、二人とも持ち合わせておらず、
時計を見ればもう四時前になっていた。
「これからどうします? もう帰りますか?」
それは駄目だ。ホテルでディナーがまだだ。
カカシは首を振った。イルカは小首を傾げ、「何処か行きたい所があるんですか?」と尋ねてきた。
そんなこと訊かれても、無いから答えられない。何か時間を潰すもの、と思って歩きながら視線を走らせると、
ゲームセンターが在った。
「ゲーセン? そういや、あんまり行かないなぁ。俺、ゲームは好きなんですけどね。
すぐ負けちゃうんですよ」
じいっとそれを見るカカシに、イルカがそんな風に声を掛けてきた。
多分ゲーセンに行きたがっていると思ったのだろう。カカシは数度遊んだことはあるが、
ただの暇つぶし程度だった。けれどもその暇つぶしをしたいんだったと思い出した。
カカシがそこへ向えば、イルカも付いて歩いた。
なんやかやと見て回り、イルカがこれをしようと、顔を輝かせて音楽のリズムに合わせて踊るゲームを指した。
それだけは勘弁してくれ。
口には出さなかったが、踊っている自分の姿を想像して青ざめて固まったカカシに、
イルカもそれ以上は望まなかった。
多分アスマ辺りが、カカシにそんなことをイルカが要求したと知ると、イルカをある種尊敬の眼差しで
見つめたことだろう。
しょぼんとしたイルカは次の瞬間には新しいゲームを指した。今度は音楽に合わせてボタンを
押すゲームだった。
これぐらいなら…、と頷くと、イルカは何の曲にするか聞いて来た。
しかしカカシには分からない。普段音楽など聴かないからだ。
「アニメなんかもありますよ」
イルカは気を使って示したが、アニメなんかも見たことが無かった。仕方ないとイルカが適当に選び、
それでやってみると、簡単な曲なのにカカシはテンポがいつもずれた。
「カカシさんて、音痴なんですか?」
イルカが笑いながら言うと、カカシはむすっとして、次のゲームにイルカを引っ張って行った。
格ゲーでは、カカシは台の所にある技の出し方を見ると、すぐに覚えてそれを使った。対戦台のイルカは、
よく分からないままガチャガチャと操作して、所謂タコ拳を繰り出した。が、
正確に必殺技などを出すカカシには、敵わなかった。
イルカはムキになって、何度も戦っていると、すぐに小銭は尽きた。
一回も勝てなかったことに腹が立ったようなイルカは、次なるゲームにカカシを引っ張った。
あれやこれやと遊んでいる中、ふと時計を見たイルカが驚きの声を上げた。
「あれ、もう帰らないといけない時間ですね。ご飯作らなきゃ」
もう時間は六時前になっていた。
「いいよ、今日は。外で食べよう」
元からそのつもりだったカカシは、簡単にそう言った。けれどもイルカは全く思いもよらなかったことを
告げられ、ビックリした。いきなりそんなことを言われても、都合というものがある。
「え…、でも皆が…」
「電話すれば大丈夫」
「でも…俺の仕事なんですよ」
困った顔でイルカが言った。誘いを断るのは、性格的にやり難い。しかも相手はカカシ。カカシには、
何だか抗えないものがあった。強引だとかよりも、あのカカシが誘っている、と思えば、
ここで断ると次からは無いような気になるせいかもしれない。
一方カカシは、少し意地になったように、ホテルでディナーにこだわっていた。
今までが順調だったのだから(カカシにとっては)ここも行かなければいけないという気持ちがあった。
そしてその後、最後に行く所も既に決めてある。それもテレビの受け売りだ。
そんなマニュアル染みたものを信じるカカシは、まるでモテない男のようだが本人は真剣だった。
「今日ゲンマ居ないって言ってたよ。アスマも。後は青葉だけだよね?」
「…そういえば…青葉さんも居ないんだっけ…」
しかしそう言われ、そうだった、今夜はカカシさんと二人だったのを忘れていた、とイルカが言った。
青葉は今日、一日バイトを入れていたのだった。
何だか間抜けだ。
しかし、これは都合が良かったと取るべきか。
「じゃあ、決まり」
カカシが口元を緩めて言った。それを見て、イルカもまぁいいか、という気になり、クスリと笑った。
(04.10.17up)