ひとつ屋根の下2

最終話「一緒に帰ろう」





 車が到着したのは、木の葉荘から割合離れた場所に建つ、高級マンションだった。
「…管理人さん、立てる?」
 ここにくるまでに時間が経ち、イルカはある程度身体が動かせるようになった。
「はい…」
 イルカが車から降りると、「では」と言って付き人は去って行った。
「……」
 改めて見るが、本当に立派なマンションだ。一体ここに住むのにどれぐらいお金が掛かるというのだろう。分譲マンションだから、 一部屋億円とかそんなレベルじゃないだろうか。
「…さ、行こう」
 カードを挿入させて番号を押してドアが開くと、カカシはイルカの肩を抱き、歩き進ませた。
 エレベーターに乗り、十二階で停まる。
 戸惑うイルカはカカシに促されるまま、歩いていった。
 部屋番号、一一一〇番。カカシがまたカードを差し込むと、数秒ランプが点滅してドアが自動的に開いた。
 中に入ると、マンションなんてレベルじゃない室内の広さにイルカは圧倒された。
「やっぱり億ション…」
「え? 何?」
 カカシはキッチンのポットに水を入れ、スイッチを入れるとそれは瞬間に湯を沸かした。
「コーヒー淹れるよ。座ってて」
 座るって、何処に。
 そんな風に思いながら、イルカは一先ずキッチンにある小さなテーブルの椅子に腰掛けようとした。
「あ、そこじゃない。向こうの部屋行ってて」
「向こう…?」
 そんなこと言われても、部屋がたくさんあるではないか。
 戸惑っているイルカを、カカシは手を引いてキッチンの右隣りの部屋に連れていった。
 部屋の電気をつけると、そこは大きなベッドが一つと、あとは箪笥などがある大きな部屋だった。
 カカシは何のスイッチも入れてないのに、部屋の暖房がついている。完全な空調というやつなのだろうか。
「一応ここ、オレの部屋」
「…へえ…」
 こんないいマンションがあるのに、どうして木の葉荘になんかいるのだろう。
 椅子が無いので、躊躇いながらもベッドに腰を下ろした。
 コーヒーを淹れて戻ってきたカカシから、コーヒーカップを受け取りながら尋ねてみた。
「カカシさん…このマンションは一体…」
「ああ。ここは…あの親父がオレに買ったマンションさ。…幼い頃からずっとここに住んでいた」
「へえ…ここに」
 こんな広いマンションに、子供の時から一人で住んでいたというのか。
 今は住んでいないからか、あまり人の住んでいるような気配がしない。
「…親父の世話になるのが嫌だったから…自分で金稼げるようになってから出たんだ。だけど親父はここにいつでも戻ってこれるようにって…使用人にたまに掃除とかさせてるらしいよ」
 ぶっきらぼうに、しかし照れ臭そうにカカシが言った。今回は役に立ったけど、なんてツンとして付け足す。
「そう…なんですか」
 暖かいコーヒーを口に含む。牛乳が多めで、甘くて…普段は苦手なのに今はそれがありがたい。
「…今、風呂の湯を入れてるから…もうすぐ入れるよ」
「…ありがとうございます…」
 ぐっと飲み干したカップを、カカシは取り上げてサイドテーブルの上に置いた。
「カカシさん…」
 カカシはイルカの横に腰を下ろして、そしてイルカの身体を抱き寄せた。
 いつものように強い力じゃない。気遣ってか、優しい力だ。
 別にいいのに。
 いつもみたいにぎゅって、息ができないぐらい強く抱き締めてくれるほうがいいのに。
 そして詰ってくれていいのに、カカシはイルカの髪を優しくすきながら、同じく優しいキスを顔に降らせる。
「ふ…っ」
 カカシが優しく触れてきて、イルカは喉を詰まらせた。
「ごめんなさい…カカシさ、」
「いいよ。もう忘れて」
 あくまで優しく、唇を重ねてくる。頬を撫で、何度も唇を啄ばまれ、イルカは涙を流した。
「…泣かないんじゃなかったの?」
 意地悪く笑うカカシに、けれども反論する元気が無い。
「もう泣かないで。大丈夫なんだから」
「カカシさん」
「何?」
「…抱いて…下さい…」



ひとつ屋根の下2 最終話「一緒に帰ろう」





 男が男に本来求めるようなことじゃないだろう。
 けれども今、イルカはそうして欲しいと思った。
 カブトに触れられたあの嫌な感触を拭い去る為にも。早くカカシのものなのだと、実感したかったのかもしれない。
 カカシは何度も抱きたいと言っていた。
 だから、聞き入れてくれると思っていた。
 けれども。

「…そろそろ風呂溜まったんじゃない? 入ってきなよ」
 カカシはイルカの身体を離して、立ち上がった。
「……」
 どうしてと、眉を寄せるイルカを振り返りもしないで、カカシは部屋を出て行った。
 カカシは、嫌になったんだろうか。
 カブトにあんな風にされた自分を。もう、この身体に興味を無くしたのかもしれない。
 イルカはじわりと涙を滲ませた。
「管理人さん、こっち」
 カカシが呼ぶ声がして、イルカは重い身体を起こした。




 流石に風呂場も広く、足を伸ばせるぐらいの湯船に浸かってイルカは息を吐いた。暖かい湯が気持ち良い。女じゃないけど、カブトに触られた不快感を落とすように、 何度も身体を洗った。それでもまだこびりついているようだ。
「……」
 どうしてあんなことを。
 そう思いかけた思考を止めた。今はもう、何も考えたくは無い。
 ゆっくり風呂に浸かり、のぼせそうになって出た。

 ふかふかのバスタオルで身体を拭いて、用意されていたバスローブを着る。こんなのテレビで見たことがあるぐらいで、着たのなんて初めてだが結構楽だ。
 カカシは何処にいるのだろうと探すと、応接間らしきところでソファの上に布団を運んでいた。おそらくイルカの寝床だ。
「…あ、もう出た?」
「はい…。ありがとうございました」
「固いなぁ、管理人さんは」
 カカシは笑いながら近付き、まだ乾いていない髪を肩に掛けたタオルで拭き始めた。
「ちゃんと乾かさないと、風邪引きますよ! って、アンタの専売特許じゃないの」
 クスクスと笑いながら、イルカを甘やかす。
 嫌われたわけじゃないようで、イルカは一先ず安堵した。
「木の葉荘の奴らには電話しといたよ。オレと管理人さん、今夜は帰らないって」
「え…」
 思わずドキッとした。
 皆は、変に思わなかったろうか。
 そんな風に案じたのが分かったのか、「酔って帰れないからホテル泊まるって言っといたよ」とカカシは付け足した。
「…ありがとうございます」
 ともかくも、まだ帰りたい心境ではなかったからそれで良かった。
「…その、オレこの部屋使わせてもらっていいんですか?」
「ここじゃないよ、オレの部屋使って」
「えっ、そんな…!」
 そんなわけにはいかないと、イルカは首を振った。この部屋だけでも十分ありがたいのに、カカシの部屋だなんて。
 だけどカカシは強引に言った。
「ダーメ。ここはオレの家なんだから。アンタは従うしかないってこと」
「カカシさん…」
 イルカの身体を強引に押して、カカシは自分の部屋に連れいていった。
「じゃ、オレは風呂に入ってくるから」
 カカシが部屋を出て行き、イルカはやがてベッドに腰を下ろした。
 暫くそうしてボーっとしていると、部屋をノックしてカカシが顔を覗かせた。
「まだ起きてるの? 早く寝なよ」
「…はい」
 カカシはおやすみと言って、素っ気無くドアを閉めた。

 とんだクリスマスイブになった。
 クリスマスプレゼントのケーキは、木の葉荘に在る。それともう一つ、カカシにパグ犬のストラップを買っていた。今日は渡せなくなったが、明日渡せばいい。
 …と思っていたが。
「…こんな家に住めちゃうぐらいの金持ちに…もしかしてオレってかなり陳腐なもん買っちまったんじゃ…」
 今頃になって気付いた。そういえば、カカシからのプレゼントは高価なものばかりだ。
「…あーあ」
 イルカはごろんと大きくてふかふかのベッドの上に寝転んだ。
 不釣合い、なんて言葉は嫌いだけれども。まさに自分とカカシはそうなのかもしれない。
 あんな男に騙されて。カカシが来なかったらと思うと、ゾッとする。
 カジにしたってそうだ。
 カカシが傍にいてくれたから、乗り越えられた。
 この身体に傷をつけてくれたから。
 だけど自分はカカシに一体何をしただろう。何ができただろう。これから先、何をしてあげれるというのだろう。
 何も無い。
「……もう、ダメかなぁ」
 悲しい気持ちがぐっと押し寄せてきて、言葉にするとそれが真実に思えた。
「…っ、…ぅ…っ」
 馬鹿みたいに、涙が後から後から溢れてくる。

「――…管理人さん…」

 布団に顔を押し付けて、声を殺して泣いていると、再びカカシが部屋に入ってきた。ビクッと肩が揺れる。みっともないところを見られてしまった。
 顔を上げられずにいると、カカシの気配が傍に寄るのが分かった。
 カカシはあくまで優しい調子で、イルカの頭を撫でた。
「…オレね、あやすのって苦手。どうやったら泣き止んでくれる?」
 その言い様に、イルカはカッとなった。
「だ…っ抱いてくれたらいいだろっ」
 抱いてくれたら。
 こんな不安なんて、一気に吹き飛ぶはずなのに。
「…できないよ。だって管理人さん、傷ついてるじゃない」
「……それは」
 だからこそ、言っているのに。
 土管の時は抱こうとしたくせに。
「オレは消しゴムなんかじゃないよ。カブトの跡を消す為になんか誘われたくない」
「…ち…違…ッ」
「違わなくないよ。管理人さん、やけになってるだけでしょ」
「違う…ッ」
 顔を上げてカカシを見れば、カカシこそ傷ついている顔をしていた。
「……」
 どうしてそんな顔を。
 イルカは言葉を失くして、カカシを見つめた。
「オレは管理人さんが好きだから抱きたい。管理人さんも同じ気持ちじゃなきゃ嫌だ」
「……ッ」
 いつだってそうだ。
 カカシはこんなにこっちの気持ちを考えてくれるのに。自分はすぐに余裕を無くして、カカシの気持ちを疑って見失ってしまっていた。
「ごめ…ごめんなさい、カカシさん…オレ…―― カカシさんと別れる…」
 しかしそう口にすると、いきなり強い力でベッドに身体を押し付けられた。
「…何言ってんの? アンタ今、自分が何言ったか分かってる?」
「…わ…分かって、ます…っ、オレ、カカシさんには、不釣合いだって…っ」
 カカシが物凄い目で睨みつけ、イルカは気圧されそうになるほどの迫力に目をぎゅっと瞑った。殴られるような気がしたのだ。
 けれども、カカシはイルカをぎゅっと抱き締めてきた。
 イルカが欲しかったものだ。
 ぶわっと、涙が溢れ出す。
「…不釣合いって何? ワケ分かんないよ。ああもう、アンタだからこんな腹立つのに、アンタだから殴れもしない」
「か…カシ、さん」
 ひく、ひっ、としゃくりあげ、イルカもカカシの背中を抱き締めた。
 不釣合いだと思ったのも、別れようと思ったのも何も出任せなどではなく、本当に思ったことだ。
 しかしこうやって、怒って欲しかったのかもしれない。馬鹿なことを言うなと言って。
「別れないよ。そんなこと許さない。オレはカジなんかよりしつこくて、カブトなんかより頭がいいからね。逃げれるもんか」
「カカシさん…好き」
 告げれば、カカシは先程までの勢いをピタリと止めて押し黙った。
「好きです。オレを、嫌いにならないで下さい」
「何…何言ってんの。嫌いになんかなるわけないでしょ」
 怒りを静め、どこか動揺しているようなカカシの頬を両手ではさむと、イルカはカカシにキスをした。
「……」
「オレは、今はカカシさんの為に何も出来なくっても、これから似合うような男になります。だから…」
 傍にいてほしい。
 正直な気持ちを告げれば、カカシの顔が泣きそうに歪んで見えた。
「…何言ってんの…? それは全部、オレのセリフだよ」
 そう言うと、カカシはイルカに口付けた。熱くて情熱的で、息すらも奪うほどのキスは、なかなか解かれなかった。

「傍にいて…ずっと、オレの傍に―― イルカ」

 キスの合間に、カカシがそう囁く。
 初めて名前を呼ばれて、イルカの涙は止まらなくなった。
 居る。傍に、ずっと傍に。
 イルカの言葉にならない想いは、けれど過たずにカカシには伝わった。




「あ…っ、あ、や」
 イルカが喘ぎながら、首を振る。
 快楽に全てが落ちていきそうになるのを、寸でのところで抵抗する。
 そんなことは意味が無いと、分かっているだろうに。
 互いに一糸纏わぬ姿になって、身体を絡ませあって。
 カカシが触れなかった場所などもう無いというぐらい、全身を愛撫されて。
 湯冷めしかけていた身体は、熱で火照っている。
 カカシの唇が、イルカの胸に押し当てられて、ちゅうと吸い上げて跡を残していく。イルカはその跡に気付かないが、ちくんと痛みが走ってぞくぞくとする。
 両の乳首はカカシの舌で既に濡れていて、時折りカカシの指先が弾く度に快感が走る。気持ちよくて仕方ない。
「は……っ、…ぁ、や、だ」
 嫌だなんて。
 そんなこと、ひとつもない。
 それでもつい、口をついて出てしまう。
「…嫌? コレも嫌?」
 カカシは既に勃起しているイルカの性器を口に含んだ。
「ああ…っ、あ、や、カカシさ…っ」
 カカシの舌が裏筋を舐め上げて、また口に咥えると出し入れをする。
「嘘吐き」
「やっ、しゃべ、なっ」
 もごもごとカカシが喋ろうとして口を動かすと、性器に更に刺激が与えられてたまらない。過ぎる快楽に、カカシの頭を手で掻き乱しながらイルカは涙を零した。
「あ…しまった、ローションのこと忘れてた」
「…え…?」
 カカシの呟きに何のことだろうと思ったが、カカシはそれ以上言わずに、まぁいいかとばかりに濡れた指を奥の蕾に差し込んだ。
「ん…っ」
 異物感がする。
 そこを使うのだと知っていたが、やはり実際に指を入れられると羞恥が湧く。自分のあんな場所に、カカシの指が…と見えない部分を想像してしまう。
 指が二本に増えたのが分かり、イルカはぎゅっとシーツを握って堪えた。
 痛みはすぐに消えても、異物感は中々拭えない。
 それでもカカシに止めて欲しくはなかった。

 木の葉荘でしたくなかったのは、勿論二階に居る住人達のことを考えると、ということはあるが。それとは別に、イルカはカカシとこういった行為をすること自体に、 怖いと思う気持ちがあった。
 カカシと抱き合ったら、自分はどうなるのだろうか、と。誰とも経験をしてこなかったから、分からなくて怖かった。
 性に対する好奇心よりも、失望されることや、飽きられること、幻滅されることとかが勝っていたというのもある。
 それに。
 カカシと抱き合えば、今以上にカカシに依存してしまいそうで…カカシが居ないと一人では立つことが出来なくなりそうで、怖かった。
 これ以上カカシを好きになるのが怖かった。

 だけども、今は抱き合いたいと思う。
 カカシをもっと深くに感じたい。いっそ溺れるぐらいに。
 好きだからこそ、何もかも重ねあいたい。

「好き…カカシさん」
「イルカ…」
 ぎゅっと首にしがみ付き、解された後口に押し当てられたカカシの熱が入り込むのを耐えようとした。
「……ん…っ、…」
 ぐぐっと、大きな塊が粘膜を押し広げて入り込んでくる。力を抜くように言われたが、上手くできない。痛くて、苦しい。
 それでもこれがカカシなのだと思うと、耐えることができた。
 どうにか全てを埋めたカカシは、熱い息を吐くと、イルカの頬にキスをして緊張を解させた。
「…動く、よ」
 余裕の無いカカシの声に、イルカはぞくぞくと背筋を震わせた。
 カカシはイルカの腰を掴んで、動き出す。最初はゆっくりだったのに、次第に早くなっていく。
「あ…は、ぁ、…っ……っ」
 肉と肉がぶつかる音と、ベッドの軋む音とに、イルカの耳が侵されていく。もう、自分がどんな声を上げているのかもよく分からない。
「…や…っ、ん、…あっ…」
「気持ちいい…」
 熱い吐息交じりに、カカシが耳元に囁く。その声だけでイルカは感じてしまい、中に収めたカカシの性器を締め付ける。
「うっ…ちょ、タンマ」
 思わずもっていかれそうになったのを、カカシはなんとか堪えた。そしてイルカの上半身を抱き起こし、座った自分の上にまたがるような格好をさせた。
「ああ……っ、ひぅ」
 すると、届かなかった奥の方までカカシの性器が入り込んでくる。イルカはぎゅっとカカシにしがみ付くことで耐えた。
「い、いや…こんな、」
「大丈夫。ね」
 カカシは下から突き上げ始める。
「あぁ…、や、…っ」
 イルカは頭を振って、ポロポロと涙を零した。
「可愛い…イルカ」
 イルカの涙や汗を、カカシが舌で拭う。
 突き上げて、揺り動かして、イルカが身悶える様を堪能したカカシは、またイルカの上半身を布団の上に横たえさせると、高くイルカの腰を持ち上げて、 自身の腰を振る。
 イルカの濡れた性器にも手を絡ませて、扱いた。
「あ…あ、あー…っ」
 両方の刺激に、イルカは甲高い声を上げて遂情した。
「…く」
 カカシはその時の締め付けにもまた堪えると、一旦、イルカの中から引き抜いた。
「…ぁ…っ」
 ずる、と抜かれる感触にも、イルカが身を震わせる。
 カカシは自分で陰茎を扱きながら、イった余韻に震えるイルカの腹の上に、白濁をかけた。
「…カカシ、さん」
 身体をイルカの横に寝そべらせ、イルカの身体を抱き寄せる。
「これで全部オレのものだから」
 ちゅ、と額にはりついた髪を指ではらいキスをして。
「…オレも全部、アンタのものだから」
「…!」
 イルカは目を大きく見開くと、真っ黒で濡れた瞳でカカシをじっと見つめる。その瞳が、みるみると涙を溜めていく。
「…はい」
 頷いて、イルカもカカシを抱き締めた。








「…あーあ…夜が明けたら帰らなきゃいけないか」
 ぽつりと、カカシが零す不満気な声を、イルカは意外に思った。
「…嫌なんですか? 木の葉荘が」
「ううん。…でも、ここにいる間は、管理人さんを独り占めできるでしょ」
「……」
 イルカは頬を染め、何も言えなかった。
 カカシはこうやって、素ですごいことを言うから困る。未だにこんなカカシの言葉一つに、くらくらと酔ってしまいそうになるから困る。
 まさに殺し文句だ。
 それに正直、イルカだってこうしてずっと二人きりでいたいという願望がないわけが無い。誰に気兼ねすることなく、カカシと引っ付いてられるし、 キスだってそれ以上だって出来るのだから。
「…うわっ」
「え?」
 自分の思考回路に自分で驚いた。なんでもないです、と言いながら、内心のた打ち回るぐらい恥ずかしい。

「…でも、ま。帰ったら、管理人さんへのクリスマスプレゼント届いてるだろうしね」
「…え、プレゼントが…?」
「そう。なんだと思う?」
 カカシがくれそうなプレゼント。やっぱりあれだろうか、ポールスミスだろうか。けれども届くってなんだろう。通販で買ったのかな、と悩んでいると、 カカシはにこにこ笑って、「楽しみにしといてね」と言った。
「…分かんないです。教えてください」
 妙に気になって尋ねると、もったいぶっていたカカシは、けれども言いたかったのかあっさり白状した。

「それはね、猫だよ」

 猫。
 そういえば、飼おうとか言っていたが…まさか本当に。
「アメショっていうやつ? ペットショップに行ったらこんな小さいのがいて、それに決めた」
 カカシが両手を使って、小さな形を教える。手の平サイズぐらいの仔猫。憧れのアメリカンショートヘア。

「…帰りましょう、カカシさん」
「え?」
「今すぐ、帰りましょう」
「ちょ、ちょっと」
 イルカはベッドからすぐさま抜け出そうとした。
 けれども。
「…っ」
 腰が痛んで撃沈した。
「あれ? どーしたの?」
「痛い…腰が痛い…」
「…ああ…」
 つい激しくしちゃったから、なんて悪びれるふうもなく、カカシはイルカの腰を擦った。
 その手を憎く感じて、イルカは身体を捩る。そんな動きにもやっぱり痛みが走る。
「カカシさんの馬鹿ッ、も、もうしないから」
「ええっ!? ちょ、冗談だよね?」
「本気です」
 そう。本気で怒って言っている。ただの腹いせだ。
 こんな痛みを伴うなんて思ってもみなかったが。それでもまたきっと、抱き合うに決まっている。
 自分だって、カカシを求めているのだから。
「……っ」
 だからオレはどうしてこんな、とまたも思考回路に羞恥を感じて、イルカは心の中で悶えた。今、カカシと反対方向に顔が向いていて良かった。こんな顔、 見られたくない。
「ねえ、管理人さん。冗談でしょ? ねえ」
 本気で心配したように、イルカを擦ってくるカカシに笑ってしまいそうになる。こうやって、普段カッコいいくせに時にかわいくなるから卑怯だ。

「アメショもまだ届いてないよ。多分昼頃だって言ってたし。ね、だから今は一緒に寝よう」
 ぎゅうと、カカシが背後から抱き締めてくる。
「…で、一緒に帰ろう。木の葉荘に」

 それは。
 とても素敵な提案だった。




 ベッドの上で、あきることなく二人でじゃれつきあって。
 永遠なんて無いと本当は分かっているのに、それでも何度も誓い合った。

 おままごとみたいな恋だと笑うひとが居るかもしれない。
 愚かな恋だと笑うひとが居るかもしれない。
 夢を見ているだけだと言われたって。

 それでも二人は誰より真剣で。
 なにより互いに誠実に愛し合っていた。




 これから先、またどんなことが起こるのかなんて分からないけれども。
 繋いだ手を離さずに、ずっと一緒に生きていたい。


 ――― ひとつ屋根の下で。





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