ライドウと青葉、そしてゲンマ2
しかし世の中というものは、思う通りにはいかないものである。かつてそれを学ぶ機会がいくつもあったはずなのに、ライドウはこりないのか学習能力が無いのか、ゲンマに言わせれば後者らしいが、ともかくも要は聞き流せなくなってしまっていた。
イルカがいかに天使で愛らしくて穢れ無き存在かを熱く痛々しく語った青葉は、紅潮していた頬を一気に素に戻し、おぞましいほど地の底を這わせた声で、カカシへの呪いの賛歌を始めた。この辺りで、ライドウは聞き流すという回避術バリアーが効かなくなってきた。あまりの呪いの強さゆえ、ライドウごときのバリアで太刀打ちできるはずもない。呪いはいつしかライドウの身体を蛇のように取り巻き、まるでカカシではなく自分が呪われているような錯覚さえするほどだった。
「それで、だ。オレはあのハイエナの如き輩を排除せねばならなくなった」
青葉の瞳は、メガネの奥に潜むその瞳は怪しい色を湛えて光った。
(ほ、本気だ……!)
ライドウは背筋が凍るような思いだった。
「……あ、青葉さん、ちょっ……、なにもそんな」
「貴様に何がわかるというのだ! イルカが……イルカが……っ」
青葉は言葉に詰まった。ぐぐっと喉を鳴らしている。多分、涙を抑えているのだろう。ライドウだってそんな青葉を目にして、言葉を失った。
「あんな……かわいそうに……かわいそうになあああっ、イルカあああっ」
ふびふびと、ついに泣き出した。ライドウにはかける言葉が見つからない。
話の流れとしては、イルカにあんな鬼畜などふさわしくないのだが、それでもイルカがそれで幸せだというのなら、と断腸の思いで見守っていたら、カカシが木の葉荘を出て行った。カカシが居なくなったことで、イルカが沈んでいるのが青葉には耐えられない。
だから、カカシを抹殺するつもりらしい。
ちなみにカカシが木の葉荘を出て行ったといったところで、ライドウがつい「良かったですね」と言ってしまったが為に怒涛のような青葉の非難が始まったのだ。
理不尽だ、とライドウは思った。カカシが木の葉荘に居たら居たで、気の休まる間もなくイルカを守らねばと大学やバイト以外で見張っていた日々のあれこれを語られたのだ。ついそう言ってしまうのは人情というものではないか。
出て行ったら出て行ったで気に食わないというのなら、一体カカシはどうしたらいいというのだろう。ライドウはカカシを不憫に思った。
別にまともに取り合わなければいいのだが、ライドウという男はその辺りが実に不器用にできている。
「カカシさんを排除しちゃったら、イルカはもっと悲しみますよ」
だからつい、そんな風に返してしまうのだ。
すると、青葉は雷に打たれたような衝撃を受けた顔をして、そして畳に平伏した。
「う、うおおおおおおおおっ!!」
まるで映画俳優のように、豪快に号泣する。ライドウは顔をひきつらせて、こんな青葉を置き去りにしては逃げるに逃げられない心境で困り果てた。もう、こっちが泣いてしまいたかった。
「青葉さん、そんな泣かないで下さいよ。ね。あの二人なら心配いりませんから」
「な、ならばっ、畠財閥を、ぶっつぶすしかないではないかっ」
「………え……?」
「くう、このままではおれんっ、さっそく準備に」
「まっ待ってください! 一体何を!?」
くわっと涙に濡れた顔を上げた青葉は、立ち上がって部屋から出て行こうとするので、ライドウは真っ青になって青葉の腕を掴んだ。
「放せ並足! 畠財閥を潰す為にコンピューターウイルスを作成せねばならんのだ! あとは大学の教授に大学院の取り消しを話さねば」
「え、えええっ!? ちょ、なんでそうなんだ!? 落ち着いてくれよ! それ犯罪だし! あと大学院取り消して!? 教授寝てるし!」
ライドウは半ば以上パニックに陥った。
青葉ならコンピューターウイルスを作ってしまいそうだ、と思ったからだ。ともかくも止めなければ、と必死だった。
すると意外にも、青葉はピタリと勢いを失った。
「……何を言っている並足。オレがあの財閥を潰そうと思ってできることといえばコンピューターウイルスぐらいのものだろう。犯罪? そんなもの……―――」
青葉はフッとニヒルに笑って言い切った。
「――バレなければいい」
「え……えええーーーっ」
まさかこんなことを言うキャラだとは思ってもみなかったライドウは、素っ頓狂な声を上げた。
「そ、そこ台詞違う!『イルカのためなら構わん』とか」
「だから何を言っているのだ。頭を冷やせ並足、酔っているのか? オレが刑罰に処せられ、刑務所暮らしなどという事態になったら、イルカを誰が守るんだ。本末転倒だろう」
「えええーーーーっ」
もうライドウは何と言っていいかわからなかった。思い切り矛盾しているというか、論点が違いすぎているのだが、こうも言い切られるとまるで自分が間違っているような気持ちにもなる。それになんだか、カッコイイ。
実はライドウも結構酔っていた。
続
(10/01/13)