猫の気持ち、君の気持ち

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  15.楽しい気持ち  




「イルカ先生、これどうぞ」
 アカデミーの職員室にはもう慣れた。座ってなくてもどこがイルカ先生の机なのかわかるぐらいには。
 今日はイルカ先生が居て、オレはうきうきとしながら近づき、そして手にしていたものを机の上、つまりはイルカ先生の目の前に置いた。
「………………………、なんですかこれは」
 少々沈黙があったものの、イルカ先生が口をきいてくれたことが嬉しくて、それだけでもう頬がゆるんじゃうレベルになってしまいました。そんな下僕なオレです。
「それ、イルカ先生の為に作ったお弁当です」
「いりません」
 今度は早かった。即答の勢いで御断りされてしまったが、オレはそれを引き下げることはしなかった。
「美味しいですよ」
「いりません」
「一口だけでも食べてみてください」
「いりません」
「食べ終わったら机の上にでも置いといてください」
「い・り・ま・せ・ん」
「では、また」
 オレは言うなり姿を消した。
 多分イルカ先生は怒って、そして困っていると思う。
 大体イルカ先生がわかってきたオレは、このところ強引に出ることにしていた。
 そうでないと、何も進歩しないと判ったからだ。
 イルカ先生はあんなにオレに冷たくするくせに、それでもそんなオレに対しても、冷徹になんてなりきれないひとだ。オレの手作り弁当を捨てるなんて選択肢は、イルカ先生には無い。断言できる。
 下僕になったものの、どうやってイルカ先生に近づけばいいか判らず一週間、オレはその間、何も学ばなかったわけではない。必死にまとわりついて、周囲に変な目で見られたものの、それでもイルカ先生という人物を観察し、学んだ。
 その結果が今の行動なわけだ。
 そもそも、これ以上嫌われる心配なんて無いんだよ、オレは。………あ、自分で自分の心臓えぐってしまった。
 とことんやれるだけのことはやらないと。
 だって諦められないんだから。
 イルカ先生は料理するのがあまり好きじゃないのか、それとも作るのが面倒なのか、ここ数日程度の観察において、弁当を持参することはなかった。―――まぁ実際弁当持参してないんだけど、ここのところずっと残業続きで帰るの遅いせいかもしれない。パン一個という悲惨な日もあった。どうやらそんなにお金が無いらしい。
 それで、愛情弁当というわけだ。

「さー、次は何するかな」
 考えて、楽しんでいる自分にふと気付く。
 最初は辛い気持ちが強かったけれども、案外、好きなひとを落とすって行為は楽しいものなんだな。
「カカシさん」
 校舎を出れば、忍猫が待機していた。
「おいで」
 オレが手を伸ばすと、嬉しそうに忍猫がオレに駆けよって、ぴょんと腕を伝い肩に飛び乗った。ぐるぐると喉を鳴らす声が耳の近くでする。
「お弁当、どうでした?」
「渡せたよ」
「食べてくれました?」
「さー、どうだろう? 食べてくれるんじゃないかな。そうだといいな」
 弁当を睨むイルカ先生を想像して、結局食べるだろうイルカ先生も想像して、オレは笑った。
 今こうしてイルカ先生にアタックするのが楽しいのは、この忍猫のおかげが大きいということを、オレは知っている。かわいい、オレの相棒。

 ―――だから。
 オレはその時、想像さえしなかった。
 この忍猫が居なくなる時のことなんて。



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