猫の気持ち、君の気持ち
17.むかつく気持ち
正直、オレは自分に関する噂とかに疎い。ああ、正直っていうか、こんなこと言うの今更だよね。うん、興味無い。どうでもいいから。
でも過去にアスマにこれ言ったら、なんかすごい憐れんだ目で見られて気分良くなかったから、それからは誰にも言ってない。
―――とまぁ、そんなわけで。
オレが分かってなかったことを、偶然知ることとなった。
それは本当に偶然だった。
いつものように、軽く任務を終えて任務受付所へと向かう道中、アカデミー校舎の裏庭を通りかかった時だ。
ひそひそと声が聞こえてきた。
忍者というのは当然耳が良くなくてはいけない。
というわけで、特に聞き耳を立てなくてもその噂話は耳に入ってきた。
「カカシさんが最近、イルカって中忍にちょっかい出してるとか」
あ、オレの話だ。
って、思ったけど前途の通り興味無かったんで素通りしようとした。だが。
「ああそれ、マジむかつく」
「え、イルカって?」
「アカデミー教師やってる中忍で、任務受付所で受付もやってる、ホラ鼻の上に傷のある男」
「ああ、……って、男!? え、嘘マジで?」
なんだか、話の方向性がイルカ先生に向かってしまってる。オレはそこでようやく、足を止めた。
声がする方向に目をやれば、大きな木の下でくの一が三人ばかり固まっていた。
あの程度の潜めた声で、しかもこんな誰が通るかわからない場所で、中忍だろうけどよくその中忍になれたな、なんて観察しつつ、なんとなく不穏な空気も感じ取ってしまって、どうしようかなと空を仰いでみた。ああ、今日は晴れてるな。イルカ先生、弁当食べてくれたかな。
「なんであんな男なんかに?」
「さあ? いつもの遊びでしょうけど、それにしたってねぇ」
なんだその、いつもの遊びって。
全く身に覚えが無かったが、かといってここで出ていって「今の話どういうこと?」なんて聞くわけにもいかないし。
とどのつまり、放置です。
「何よりムカつくのは、あのイルカって男がいい気になってることよね」
「ホントむかつく」
「え、何それ〜」
「あの程度の顔で」
何それ〜って、それはオレの台詞だっての。
ハァ、とオレは溜息を吐いた。
なんだあいつら。一体何がしたいっての? ほんと理解できない。
理解できないけど―――イルカ先生に悪意が向けられるのは嫌だな。それも、なんかオレが原因みたいだし。
くの一ってのは、っていうか女っていうのは本当に面倒臭い。オレはそれをつくづくよく知っているので、さぁどうすべきかと考えてはみたものの、
結局妙案なんて浮かんでこなかった。だけど放置するにもできなかった。
嫌だった。
イルカ先生が悪く言われることを流すなんてこと、オレにはできなかった。
「―――あのさ、」
正直むかついていた。だからオレは、自分がどんな顔してたかなんて知らないけど、ちょっと怒ってますよって顔だったかもしれない。
くの一はオレの突然の登場にビックリして、でもそれだけじゃなくビビった顔してたから。
「あ、カカシ、さ……」
「イルカ先生には、オレが勝手につきまとってるだけなんで、そこ訂正よろしく」
「………、うそ」
くの一達はどう口にしていいかわからないって顔だったけど、今オレ何言い返されたってろくに聞く耳持てないから、何も言わなくていいよ。
そのままオレは踵を返して、その場を去った。
スタスタ歩いていると、「カカシ先生」ってかわいい声がした。
「サクラ」
「ふふ」
サクラはなんだか嬉しそうに笑ってた。
「カッコ良かったですよ」
「………」
ああ、そっか。今の、見てたんだ。
別に見られて困ることでなし。オレは素直に褒められたことを喜ぶことにした。
「そお? サクラ、先生に惚れちゃった?」
「調子乗んな」
だけど一瞬でサクラは冷ややかな目をした。女って怖い。
サクラは表情を、今度はいたずらっぽい顔に変えた。そしてこっそり耳打ち、なんて感じに口に片手をつけて、こう言った。
「朗報かどうかわかんないけど、イルカ先生と私はついさっきまで一緒に居ました」
「え」
オレはイルカ先生の名前が出たことで先ず驚いて、で、その意味するところをそれから考えた。サクラがイルカ先生と一緒だった。ということは。
「羨ましい?」
というべきなんだろうかと自分で首を捻りつつ言うと、サクラはずるっとこけるような仕草を見せた。どうやら意図したことと違う返答をしたみたいだ。
でも羨ましい。サクラはイルカ先生と仲が良いから羨ましいんだ。
サクラは溜息をひとつ吐く。
「私は……カカシ先生のこと、ある程度わかってるつもりだから、別にね、目の前で下僕宣言されたところで、まぁ驚いたし正直引いたけど」
「う」
「―――でも、ふざけてないってわかってますよ、ちゃんと」
「………」
なんだろ。もしかしてオレ、フォローされてるの?
サクラにわかってもらっても別にどうなるものでもないと思うけど、けれども、ふっと心がゆるむような気分になった。
「ありがとうサクラ」
だから感謝を伝えた。
するとサクラはくすぐったそうな顔をして、ちょっと照れた顔をオレから背けて、小さく呟いた。
「………イルカ先生にもちゃんと伝わるといいですね」
オレの耳はいいから、その言葉全部拾った。
そしたらオレの胸はきゅっと絞られたようになって、痛くて苦しくなった。