猫の気持ち、君の気持ち

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  20.追いかける気持ち  




 オレはイルカ先生とのあれこれあらましを、かいつまんで話した。紅は、オレがイルカ先生好きだって知ってて、そして今イルカ先生にしつこくつきまとってるのも知ってたから、話が早かった。まぁ、あんだけ周囲を気にせずアタックしてたから、知っててもおかしくはないし、余計な説明もいらないから逆に助かった。

「あっそ」

 それに対しての紅のコメントは、それだけだった。
「あっそ、って。いやだから、何かアドバイス無いの?」
「そんなもの、以下略よ」
「意味わかんない」
「だーかーらー、最初に言ってた話の通りだっての。同じこと二回も言わないわよ」
 最初って? とオレは遡ってみた。
 オレが自分に無頓着とか、そういう話だったはずだ。それがどうして、このイルカ先生との話につながるのか。
「ねぇ、紅」
「すいませーん、冷酒ひとつ追加」
「オレわかんなくて困ってんだけど」
「アンタに理解させるように話をするのは、ここの奢りだけじゃねぇ」
「じゃあ今度寿司も奢るから。鷹寿司でどう?」
「つまり、イルカの態度が豹変した理由でしょう? そんなの簡単よ」
 紅は話が早くて助かるというか。こういうとこ、わりと好き。
「アンタが信じられるようになったってことじゃない?」
「信じられる?」
「アンタさ、自分が周囲にどう見られてるかとか、自分の噂話とか知ってるわよね?」
「まぁ、それなりに」
 なんだっけ。まぁあれだ、オレが遊び人的な。
「そういうの耳にしちゃうと、アンタが自分に言い寄ってきても、どうせこれ何かの遊びだろって思っちゃうもんじゃない?」
 あ、そうか。
 なんか妙にオレ、納得しちゃったよ。
 サクラが言ってた。
 ふざけてないとわかってますよ、って。そして―――イルカ先生にもちゃんと伝わるといいですねって。言ってた。
 あれは、そういう?
「……オレって、そんなに信用の無い男なわけ?」
「アンタのこと知らないひとにとっては」
 ガッカリとした気分で言えば、紅はそう返した。サクラも言ってた、オレのことわかってるからと。
 噂って怖い。
 けど、今はなんか嬉しい気分だった。
 サクラといい、紅といい―――オレのこと、信じてくれてるんだ。
「アンタさ、ただでさえその胡散臭い出で立ちじゃない。何考えてんだか、未だに私もよくわからないけど」
「あれ、わかってくれてるんじゃなかったの?」
「誰がそんなこと言ったの? アンタのことなんか全然わかんないわよ」
「え、ええー……」
「でも知ってるわ。少なくとも、アンタは冗談や遊びで男の尻なんか追っかけないってことは」
「……ええと」
 今のは多分、喜ぶべきとこなんだろうな。
「イルカもアンタのそういうとこ、判ったってことじゃないの?」
「……そっか」
「あーあ、何それ。もっと面白い話が聞けるのかと思ったら、アンタそんなつまんないこと聞く為に私をここへ誘ったってわけ? 酒のツマミにもならないわ」
「ええええ」
「こうなったら飲むわよ。すいませーん、次は熱燗で」
 それからというもの、どうやら今ケンカ中らしいアスマとの愚痴に散々付き合わされて、どうしてオレがこんな目に、と思わなくもなかったが、それでもオレはイルカ先生のことでスッキリすることができたので結果良しとしよう。




 紅は酒が好きで、酒に強い。
 が、今回は酒が過ぎたようで、どうにも危なっかしい素振りだった。
「らーいじょうぶよぉ」
 舌も回って無い。
 紅なんて襲う馬鹿が存在するなんて思ってないんだけど、流石にこんな様子の紅を置いて帰るのもどうかと思った。
「送るよ」
「やーだ、襲う気でしょー?」
 ゲラゲラと笑いながら、オレの背中をバシバシと叩く。本当、置いて帰りたい。
「ほら、行くよ」
 面倒に思いながらも、紅の腕を引いて歩き出した。それだと歩きにくいから、紅の腰を抱くような格好になった。こんなところ、アスマに見られたら殺される。本当に迷惑な話だ。
 なんてこと思っているとだ。
 偶然って怖い。
 店を出て数歩で、なんとイルカ先生と遭遇した。
「……イルカ先生」
「あ、えと。……こんばんは」
 イルカ先生はどうしてかバツの悪いような顔して、ペコリと会釈すると去っていった。
 夜だし、確かじゃないかもだけど、どうしてあんな顔してたんだろう。
 疑問に思いつつも、今はこの酔っ払いだ。
「紅、ちゃんと歩いて。重い」
「ふ、ふふふ……ほんと、アンタって、バッカ」
「はぁ?」
「なーんで、イルカ追っかけないの?」
「なんでって。お前送ってかなきゃだし」
「だっから、馬鹿だっての!」
 え、なにこれ。
 何でオレ怒鳴られてんの、意味わかんない。
「イルカがぁ、どうしてここに居たと思ってんのバカカシさんは」
「偶然でしょ」
「んなわけあるか! アンタと私が二人でここ居るの知ってて、気になってそこでうろうろしてたっつーの!」
「え、なんで紅そんなことわかんの!?」
「なんでって、だって奥の座敷にイルカと他の中忍が飲み会やってたもーん」
「えええええ!?」
 全然気付かなかった。なんだそれは。
「私トイレに行った時、イルカと会ったの。ふふふ。カカシと二人で来てるのって言っといてあげたわよ」
 奥の座敷とオレと紅が飲んでいた席は、離れているうえに間に出入り口があるから顔を合わせることは無かったはずだ。
 酔ってぐてんぐてんだったはずの紅は、急にシャッキリと立って、支えてたオレの身体を撥ね退けた。酷くない?
 でもね。
「ほら、さっさと行った」
 紅はニッと笑って、オレにまるで犬を追い払うような仕草でしっしと手を振った。
「………」
 オレは考えた。
 紅とオレが二人でここで飲んでて、イルカ先生が偶然この店で一緒で、多分その会はお開きになったんだろうけど、オレ達が気になって外でうろうろって。
 いいのかな。
 都合良く考えて、いいのかな。
 だってついこの間まで、オレのことあんな目で見て嫌ってたはずなんだよ。

 ―――だけど。

「ちゃんと帰れよ」
 それだけ紅に言うと、オレはイルカ先生のあとを追っかけた。



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