猫の気持ち、君の気持ち
21.引っかかる気持ち
オレは上忍、イルカ先生は中忍。
その差は結構歴然としているもので、オレがイルカ先生を追いかけてつかまえられないわけはなかった。
「イルカ先生、待って!」
あと三十メートルぐらいの距離まで縮め、オレは声を掛けた。
イルカ先生は振り返ってオレの姿に驚いた顔をして、すぐに走り出した。
まるでオレから逃げるような素振りに、オレはムキになって手を伸ばした。なんでこのひと、こんな天の邪鬼なの?それともやっぱり勘違いだったのか。オレのこと、気になってるかもしれないなんて。いや、そんなことはない。そう思いたかった。
「イルカ先生!」
「はな、はなしてください」
イルカ先生はかたくなにオレから顔を逸らして、放してくれと、それだけを口にする。なんだか、その姿が心から嫌なものに触れられるかのように思えて、無性に腹立たしい気分になった。
「……そんなにオレが嫌いですか」
気付けば、腹の底から出たような低い声でそう言っていた。
掴んだイルカ先生が、オレに気圧されたかのように震えている。好きなひとにそんな態度を取られて、傷つかない奴なんているのだろうか。少なくともオレは違う。
本当に、なんなのだろうか。
都合良く考えたことなんて霧散してしまった。いや、一瞬でも好意的に捉えてしまったすぐ後にこれだから、余計にこたえているのだろう。オレの中の、どこか客観的な部分がそう分析していた。
最初は穏やかだった二人の間が、オレの告白から急に冷えて、すごく嫌われて、それでも諦めきれずにイルカ先生に迫って、そしたら融和したかのように思えて逆に戸惑っていて。で、これだ。なんだもう。
―――疲れた。
オレはイルカ先生を放した。
「わかりました。もう二度と、イルカ先生を追いかけたりしません」
「………」
イルカ先生はやっぱりオレを見ない。見ようとしない。
だけどそんな態度のくせに、オレが踵を返そうとしたらこんなことを口にした。
「うそつき」
ピタリ。オレは足を止めた。
妙に引っかかる言い方だった。
「何がですか?」
「………」
なのにイルカ先生はだんまりときた。オレは溜息を吐いた。アホらしい、そんな言葉が胸を掠める。三文芝居っていうのはこういうのだろうか。ここにきて、白々しい気分がオレの中を充満した。
ハッキリ言って、オレは怒っていた。
振り回すだけ振り回して、浮かれたらこうやってイルカ先生はオレを落とすのだ。で、行こうとすれば引きとめるようなことを言い、聞いても答えない。
タンゴ、オレにはもう無理だよ。
今度こそ、綺麗にイルカ先生を諦められると思った。
「カカシさんは、ひどいひとだ」
「………はぁ?」
振り返れば、イルカ先生はオレをものすごい眼で睨んでいた。ちょっと怯むぐらい。
「覚えてないくせに」
なのにその目が急に歪み、雫を溢す。
オレはもう驚いちゃって、怒っていたのがどっかいって、固まってしまった。
イルカ先生が泣いている。
え、なんで?なんでなんで??
オレはあわあわとして、イルカ先生に思わず駆けよろうとした。一瞬前まで、イルカ先生のこと諦める気満々だったくせに。でもそんなこと考える前に身体が動く。軸足に力がこもる。
しかし動く本当に一歩手前で、イルカ先生が煙と共にどこかへ消えた。
「………え?」
オレは呆然として、暫くそこで突っ立っていた。