猫の気持ち、君の気持ち
8.どうでもよくない気持ち
いつも眠るとき、忍猫はベッドの下でぐるっと丸くなって眠っていた。
だが今夜は、オレのベッドの中に引き込んだ。
忍犬を部屋の中に入れたことはあまりない。必要時に呼ぶ程度で、基本的に契約関係にあるだけだから、普段はどこで何をしているのか、干渉したこともなかった。別に仲が悪いとかそういうことではなく、これが一般的な距離感だ。使役するもの、されるもの。ある一定の距離を保たねばならない。
しかしこの忍猫は、オレの下僕であって、オレと契約をしているわけじゃない。だから一緒に寝ることに、なんの支障もなかった。
暖かい。
生き物が、ピッタリ寄り添わなくても傍にいるというだけで、その体温が伝わってくるから不思議だ。
別に寒いからとかではなく、ただの気分でそうしていた。言わば気まぐれのようなものだ。
気まぐれにベッドに上げた猫は、嬉しそうだった。顎の下を撫でると、ぐるぐると鳴らす。その様子がなんだかおかしくて、オレはクスリと笑った。
「……お前の名前ね、変えよう」
オレがそう言うと、猫にとっては唐突な提案だったろう、驚いたようにオレの顔を見た。
「ど、どうしてですか?」
「……………、違う名前の方がいい」
今となっては、何故あんな名前の決め方をしたのか、本気で自分がわからなかった。下僕といっても、一度だって名前を呼んだことはないし。
「……でも」
「嫌なの?」
渋っている様子に、意外に思った。てっきり何でもハイハイと嬉しそうに頷くものだと思っていたからだ。
「せっかく、カカシさんが付けてくれた名前なのに」
「……呼びにくいんだよね」
「え?」
「オレが最初に付けた名前」
「………」
忍猫にとっては、意味がわからないことだろう。しかしオレにはそれ以上説明する気は無かった。
「………あの……、」
「?」
忍猫はどこか言いにくそうに口を開いた。
「……あのひとと、同じ……名前だからですか……?」
「……!」
忍猫が指しているのは、間違いなくあのイルカ先生だ。思わずドキリとした。
全くもってその通りだった。
だけれども、そうだと頷くのは躊躇われた。どうしてかは判らなかったけど。
この猫がイルカ先生の名前を知る機会が果たしてあったろうか―――あった。今日だ。今日、ガキ共から救われた時だ。あの時、ガキ共はイルカ先生と名前を呼んでいた。
……どう、思っただろうか。それが妙に気になった。
別にこんな忍猫に知られたぐらい、どってことはないというのに。なんだか後ろ暗い気分になるのは何故だ。オレは無意識にも目を背けていた。
背けた視界の端に、黒い瞳がオレをじっと見つめていた。
「カカシさんは、あのひとのこと、好きなんですか?」
「―――ちがう」
声が妙に掠れて出た。舌打ちしたくなるぐらいだ。なんだこれは。
違う、ってのは本当だ。本心だ。もう好きなんかじゃない。
どうでもいいんだ、あんな男。
どうでも―――どうでもいいはずだった。
『好きだと言ってしまえば、相手は自分のことを少しは考えるもんだ』
十年ぐらい前のことだったか。確かにそう言った。
自来也様は大嘘つきだ。
どういうことだ。
オレばっかりが考えてしまっているじゃないか。