猫の気持ち、君の気持ち
9.気になる気持ち
ピロロロー、と空を渡る鳥の鳴き声が響いた。
「……はぁ」
今日は非番のはずだった。
でもお呼びが掛かってしまったじゃないか。
ゴロゴロとベッドに転がっていたが、しょうがないとばかりに身を起こす。読むともなく開けていた本を閉じた。寝ころんで本を開けるのは、最早習慣となっている。
「あーあ」
伸びをすると、隣で丸くなっていた忍猫もぐぐっと身体を伸ばした。
名前はまだ決めてない。
名前を決めるというのは、本当に難しい。適当でいいと思うのだが、それでもパッと思い浮かばないでいた。
呼ぶべき名が無いというのも困るものなので、早めにつけたいのだが。
サクラ辺りにつけてもらおうかなぁ、と考えながら、手早く身支度をすると、名前未定の忍猫に手を伸ばした。
「おいで」
少しばかり躊躇をみせたものの、忍猫は素直に従い、オレの腕を伝って肩のあたりにとまる。
そうしてオレは忍猫を肩に乗せ、家を出て五代目のもとへ向かった。
ここ数日、いつもこんな感じでいた。
深い意味は無い。ただ、なんとなくそうしたいだけだった。
なんとなく、後ろを歩かれるより肩に乗っけていたいだけだった。
召集場は任務受付所だった。
忍猫は家屋に入ろうとすると、するっと肩から飛び降りる。
「………」
ちょこんとその場に待機する忍猫を見下ろし、オレはどうしようと思った。このままここに置いていくのは、なんだか嫌だ。昨日も子供達に構われて嫌そうだったのに。無遠慮な子供の手が触れるのも、思い出すと気分が悪くなってきた。
「ちょっとカカシ」
同じく召集された中に紅が居て、オレの隣に並びながらオレの肩に乗る忍猫を見つめた。
「どうしたのよ、コレ」
これとは言わずもがな。視線の先にある黒猫に違いない。こんなところまで連れて来てどういうつもりだ、と後に続くべき言葉だって容易に想像できてしまう。それもそうだ。いくら忍猫とはいえ、動物同伴で火影の召集にやってくる忍びなどいない。
「別に」
だけど連れてきたかったのだからしょうがないじゃないか。説明のしようがなかったので、そう答えておいた。
別に動物同伴は駄目だという規則があるわけじゃないので、紅もそれ以上何もいわなかったけど、あからさまに呆れた顔をされた。
「最近連れて歩いてるの見かけてたけど……。アンタが犬から猫に鞍替えするとはね」
「鞍替えなんかしてないよ。犬も猫もどっちもオレの」
言うと、忍猫は嬉しそうに喉を鳴らした。
紅は呆れ果てた顔になった。どんどん彼女のなかのオレのランクが下がっていくのが見て取れる。でも紅にどう思われようが、本当にどうでもいいので放っておく。
紅だけじゃなく、オレが忍猫を肩に乗せているのがどうにも気になる輩がいるらしい。それも結構。ちくちくと周囲から視線を感じてはいる。だけど気にしない。どうして他人が猫を連れているってだけのことが、そんなに気になるというのだろうか。さっぱり解からない。オレは誰がどんな忍獣連れてこようが、全く気にならないからだ。
―――ああ。
だけど、オレはそこでふと思った。
誰でも、というわけじゃない。
チラ、と視線を向けると、向こうもオレを見ていて結構、いやかなり驚いた。顔には出てないと思うけど。でも出てたらなんか恥ずかしいので、オレはすぐに目を逸らした。
え、なんで? なんでオレ見てたの?
すぐに目を逸らしたから、その目がどんな目だったかもよくわからない。どんな目をしてオレを見ていた? あの冷たい眼だろうか。それとも?
他の誰がどう思おうが、見ていようがどうでもいいのに。
どうでもいい存在にしたかった彼のことが、気になってしょうがない。
オレは、イルカ先生だったら、連れているのが猫でも犬でもネズミでも、なんだって気になってしょうがないに違いないって。
そんなことに、気付いてしまった。